最終年度にあたり、これまでの研究の成果をまとめる作業が主となった。継続してきた研究会の成果は論集として活字化することが決定し、その編集を共同で担当した。内容は広く哲学から、文学・精神分析・映像理論・メディア論・ゲーム理論・政治思想・フェミニズムなどにまたがる、分野横断的な試みとなった。いわゆる「情動論的転回」以後に出版された情動や感情を扱う既存の邦語文献と比べても、前例のないものになったと言えるだろう。この情動論集は学術書として、2023年度中には刊行される予定となっている。
Covid-19によるパンデミックゆえ、2020年度以降は予定していたフランスでの文献調査等が行えなかったことが悔やまれる。そのような状況下にあって、各種データベースを利用して新旧の文献のリサーチに努め、可能な限り資料収集を行った。その成果の一端は上記研究会の運営とは別に、国内での研究発表やレクチャーに反映させることができた。より具体的には、70年代後半から80年代にかけてのフランスにおいて「精神分析と政治」をめぐる議論の中で、いかに「情動」概念が重要な役割を担ったかをあらためて争点として浮き彫りにしえた。2023年現在、単行本の訳書は一冊しかない(数冊の著書の翻訳が頓挫したと思しき)ミケル・ボルク=ヤコブセンのいわば「初期」の仕事は、「集団と情動」をめぐる今日の哲学と精神分析にとって、いまなお無視しえぬ意義を保っているものと考えられる。
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