本研究の目的は、①主にアメリカとドイツの哲学・倫理学教育研究のうち特に主体性と対話の生成に関わる論点を取り上げ、それを理論・事例・方法論の面から体系的に考察すること、そして②学校や地域との連携により、①の研究で得られた内容の実践的適用を試み、既存の制度や状況を脱構築しつつ、「主体的・対話的で深い学び」を実現しうる哲学・倫理学教育のあり方を提示することである。 2023年度は、まず研究①の主たる成果として、論文「プラグマティズムとコレクティフ:哲学対話の「ままならなさ」がもたらす哲学的フィードバック」を発表した。概要としては、哲学対話の「ままならなさ」が持つ意味やそれとの向き合い方を考えるために、次の1)2)の論点に着目し検討をおこなった。 1)哲学探究の共同体を内部から支えるプラグマティズムの認識論的可謬主義を取り上げ、その趣旨と適用可能範囲について確認した。その際、筆者が関わった哲学対話の場で起きた特徴的な出来事の内実についても振り返った。 2)フランスの精神科医ジャン・ウリによる対話的な精神医療の理論と実践を参照し、特に「制度を使う精神療法」というコンセプトに着目することで、可謬主義の範囲では捉えがたい対話上の「エラー」が持つ意味について考察をおこなった。以上1)2)を通じて、実践上で生じる哲学対話の「ままならなさ」を単なるエラーとしてではなく実質的なものと捉えてさらなる哲学的思考につなげるための一つのフィードバック方法を提案することができたと思われる。 研究②としては、前年度に続いて、主として新潟市内の小学校・高校と連携し、哲学対話を導入した道徳教育、課外授業、学級・学校・コミュニティ形成の可能性を実践的に模索した。この成果は研究①の論文にまとめられている。
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