研究課題/領域番号 |
18K12180
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
野内 玲 信州大学, 医学部, 特任助教 (60757780)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 科学的実在論 / 悲観的帰納法 / 奇跡論法 |
研究実績の概要 |
本年度の目的は、本研究課題の基礎となる論文データベースの調査を実施することにより、科学的実在論論争で争点となっている「科学の成功や失敗」という概念を、科学研究の実態に即してより詳細に分析することである。 そこで、自然科学領域の論文データベースとしてweb of Science、google Scholarを用いた論文の被引用数検索を行うと同時に、申請時には着目していなかった研究資金の獲得状況から研究の成功や発展性を調査するという手法の検討を開始した。後者について、研究資金の継続性という観点から科学的実践を検討することの利点は、研究開発提案書の審査はピアレビューによって行われるため、申請した科学者の提唱する研究内容が業界でどれくらい受容されているかを判断することができる。これらの調査により、本研究課題の作業仮説として設定した科学研究の「擬似成功」「局所最適」という概念を検討する際に有用な事例の探索を実施した。自然科学分野のレビュー論文などを参照しながら、具体的事例となる研究の検討を継続しているが、現状では明確な事例を挙げられていない。 その他、本研究課題に関連する科学の実践例をより捉えつつ、科学的実在論論争を振り返るために、2018年度科学基礎論学会秋の例会において、“On the Diversity of the Scientific Realism Debate”と題したワークショップを開催した。国内外の研究者と共に、量子論、ディープラーニング、光学に関する事例を用いた提題を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はこれまでの論争で扱われていなかった事例の調査を文献データベースを用いて実施することを主眼においていた。しかし、Juha Saatsi による The Routledge Handbook of Scientific Realism (2018) など、科学的実在論論争の新局面を示す論文集が出版され、当該論争の現状を改めて再検討する必要があった。そのため、文献データベース調査の実施よりも先行研究の調査を重視した。特に、前述した論文集には、高エネルギー物理学、原始宇宙論、歴史科学、認知科学など、諸科学分野により接近した研究論文が多数収録されており、本研究課題に関連する事例調査の情報を多数得ることができた。 当初の研究目的からすると進捗に遅れはあるが、最新の研究動向を正確に反映した事例調査を行うために、こうした計画変更はやむを得ないものであったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、Juha (2018) に基づいた先行研究調査を実施し、得られた知見から文献データベース調査のための基盤を構築する。新規な事例を開拓することも重要であるが、闇雲にデータベースを調査することで時間を消費するよりは、先行研究との差異化を図るために必要な作業だと考えられる。 次年度は、チャクラバティの半実在論を批判的に検討することを計画している。その際、半実在論の「観察・観測手法の継続的発展」という前提を「擬似成功」「局所最適」の状態から批判的に検討するという当初の計画に加え、チャクラバティによる最近の著作 Scientific Ontology (2017) を参照し、彼の形而上学的世界観を切りくずすことをも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた海外の研究書の出版が遅れたため。代わりに既出版の書籍を先に購入したが、若干の金額差が生じた。この差額は次年度に本来購入予定であった書籍の購入費に充てる。
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