本年度は、社会哲学への現象学的アプローチについて論じるための予備的な研究を中心に行った。具体的には、(1)フッサールによる本質分析というアプローチからの社会哲学的考察の整理、(2)ミュンヘン・ゲッティンゲン学派における現象学的実在論の再構成、(3)行為の現象学における志向説の擁護のみっつのテーマに関して、文献調査およびそれにもとづく成果の発信をした。以下ではその概要を順番に示す。 (1)フッサールは1908年ごろから1917/18年ごろまでにかけて、アポステリオリなものはどれもアプリオリな法則に服するという発想のもとで、社会的な存在者に関するアプリオリな分析を試みている。フッサールにとってアプリオリ性とは本質に根ざした必然性のことなので、こうした分析は本質分析という形態をとることになる。しかし、関連するフッサールの草稿や講義録を精査した結果、フッサールによる社会の本質分析は具体性に欠けるところがあり、しかもこうした欠如は「そもそも社会的な存在に関して本質に基づいて必然的である事柄はほとんどない」という事情によるという示唆が得られた。 (2)ミュンヘン・ゲッティンゲン学派における社会哲学はまずもってその実在論的な傾向によって特徴づけられるため、この学派に属する現象学者たちがどのようにして実在論を擁護したのかという点は、彼らの社会哲学を再構成する際にも念頭におく必要がある。今年度は、実在論の現象学的な擁護という課題にもっとも立ち入ったコンラート=マルティウスの議論を取り上げ、その錯綜した過程の整理を試みた。 (3)現象学的な社会哲学は、行為論をその主な主題としている。そのため今年度は、行為の現象学に関する近年の議論をあらためて整理し、内容をともなった志向性を行為に認めないドレイファスの見解を、志向説を擁護するという方針のもとで批判的に検討した。
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