研究課題/領域番号 |
18K12187
|
研究機関 | 群馬県立女子大学 |
研究代表者 |
長坂 真澄 群馬県立女子大学, 文学部, 准教授 (40792403)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 存在論的証明 / 存在神学 / 異他触発 / 形而上学 |
研究実績の概要 |
本研究は、無限を語りながらも存在神学的な形而上学に陥らない哲学は、いかにして可能かという問いに、想像力の概念に取り組むことで、答えようとするものである。ここで存在神学とは、至高の存在者(無限)を存在者一般の最高原因として前提する哲学を指す。 この目的のため、本研究は、現代のフランス語圏の現象学が、カント『判断力批判』(1790)の読解を通じて無限へと向かう想像力を再考察していることに着目し、認識には寄与しない想像力によって、認識を僭称しない仕方で無限について語る可能性について考察する。 2018年度の研究の成果としては、主として以下の二点が挙げられる。 第一に、本研究は、デリダが『絵画における真理』(1978)において展開する、カント『判断力批判』の読解を詳細に検討した。そこでは、想像力が無限を感性的に表象しようとして挫折するという、崇高をめぐるカントの議論が、デリダによって吟味されている。この読解の水面下にある、ハイデガーとカントのデリダによる突き合せを考察することにより、想像力と無限との出会いについて、異他触発かつ自己触発であるような心の触発として語ることができることが明らかとなった。 第二に、本研究は、テンゲリの『フランスにおける新しい現象学』(2011)および『世界と無限』(2014)を手掛かりに、フランスにおける現象学を、非‐存在神学的な現象学として提示することがいかにして可能かを考察した。その際、後期シェリングの存在論的証明をめぐる議論、およびクルティーヌのシェリング読解(『理性の脱自』(1990))等に基づき、現代のフランス哲学において「存在神学」という言葉で表されるものの境界画定を行った。その結果、テンゲリがシェリングの議論と共通する論法を用いることにより、フランスにおける現象学を、非‐存在神学的な現象学として提示していることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度の研究により、現代のフランス語圏の現象学において、カントの批判的継承者であるシェリングの思想の受容が、重要な役割を果たしていることが明らかになった。すでに研究の計画当初において、カントの超越論的理想をめぐる議論が、現代のフランス語圏の現象学における無限をめぐる議論の一つの重要な出発点であることは指摘していた。しかし、このカントの議論を繰り返し論じるシェリングの思想の影響については、当初、計画の視野のうちには入っていなかった。2018年度の研究において、現代のフランスの現象学者たちが「存在神学」という言葉で何を表しているのかを、あらためて明確にしようとしたところ、なぜ彼らがアリストテレスやトマス・アクィナスの形而上学を存在神学的ではない形而上学として位置づけるのかを説明する必要が生じた。クルティーヌの後期シェリング論や、シェリングの『啓示の哲学』講義(1841-42年冬学期講義)の読解を通して、シェリングによる存在論的証明の哲学史をめぐる議論を経由することで、この謎が解消された。さらに、シェリングの積極哲学を迂回することで、現代のフランスの現象学を代表する哲学者であるリシールの現象学において、なぜシェリングが重要な役割を果たしているのかについても、明確な答えを獲得することができた。 以上により、2018年度の研究においては、当初の計画以上の進展が得られたと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度の研究から得られた上記の研究成果を踏まえ、今後は、リシールの『思考することの経験』(1996)でのシェリング読解をさらに綿密に検討する予定である。そのためには、まず、この読解の大半が考察の対象としている、シェリング『神話の哲学』第二巻や、『啓示の哲学』の附論『積極哲学の諸原理の別の演繹』を精読する必要がある。その上で、リシールがシェリングの議論をいかに、カントの超越論的理想批判の系譜のもとに位置づけ、自らの現象学へと換骨奪胎してゆくかを観察する。これにより、存在神学的ではない現象学の一つの形態が明確になるであろう。 次に、このリシール現象学の研究から得られた成果を、さらに、カント、フッサール、ハイデガー、レヴィナス、デリダ、テンゲリの議論の文脈に立ち戻って、再検討する。最終的には、現象学という分野を超えた哲学の議論として、存在神学的でない形而上学がいかにして可能かという現代の問いに答える成果を得ることを目標とする。
|