本研究では、5年間の研究期間を通して、哲学・倫理学を取り入れた中学校の「道徳科」授業の開発に取り組んだ。その最大の成果は、現役中高教員8名を研究協力者に迎え、哲学対話とアクティブラーニングをふんだんに取り入れた中学校「道徳科」の教材集『中学道徳ラクイチ授業プラン』を学校教員向けの図書として刊行したことである。それ以外にも、中学校「道徳科」の授業で活用可能な哲学・倫理学に関する教材・図書(小中学生向けの読み物等)を3冊刊行し、また哲学対話を取り入れた中学校「道徳科」の学習指導案を大学教職課程の教科書用図書で公開した。 以上に加えて、本研究では、哲学対話を取り入れた日本の中学校「道徳科」の授業実践事例を、国内外の哲学・教育学研究者、学校教員、一般市民など幅広い対象に向けて、論文・書籍・口頭発表など様々な媒体を通して精力的に紹介した。さらに、道徳だけでなく知的徳の教育も射程に含めた上で、哲学・倫理学が「徳の教育」に寄与するメカニズムを現代哲学の枠組みの下で考察した。 最終年度においては、哲学・倫理学を道徳性育成のための単なる教育的「道具」とすることの問題性を、教育哲学者ガート・ビースタの論考を手がかりに考察して論文にまとめた。また、研究代表者も授業者として11年間携わってきた2つの中学校の「道徳科」での哲学対話について、他の授業者と共に成果と課題をまとめ、東京で開催された子どもの哲学の国際学会で発表した。 さらに、本研究の過程で着想した教職の専門性と教職倫理学の構築可能性の問いを巡って学会発表を行い、それを基盤とした新たな研究プロジェクト「教職の専門性の解明と、それに基づく教職倫理学の構築のための学際的な基礎的研究」を立ち上げた。同研究は2023年度より科学研究費助成事業(基盤研究(B):23H00563)に採択されており、本研究から派生した発展的研究として取り組む予定である。
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