2021年度は主に世界概念の導出と正当化の方法に関するバウムガルテンとカントの立場の相違に関する研究を行った。具体的な成果は以下の通りである。 1)津田栞里氏(一橋大学)、井奥陽子氏(東京藝術大学)、桑原俊介氏(上智大学)とともに日本哲学会第80回大会において公募WS「バウムガルテンによる諸学の基礎づけ――形而上学から美学へ」を開催した。同WSで報告者はバウムガルテンが世界概念を存在者という「最高類」とこの世界という個体の間にある「種」概念と位置付けることで、世界概念の導出と正当化を行っていたことを明らかにした。 2)2021年度後半は、『純粋理性批判』「超越論的弁証論」「序論」の記述を集中的に分析した。その結果、「世界概念は「究極前提を見つける」という仮言的理性推理の目標を達成するための前提として理性が対象の側に想定せざるをえない理念である」というカントの主張の意味を十全に明らかにすることができた。さらに、この成果を成果1)と突き合わせることで、カントがバウムガルテンとは異なる仕方で世界概念の導出と正当化を行っていたことを裏付けた。 3)成果1)と成果2)に関する論文2本を作成した。2022年2月にこれらの論文を報告者が編者の一人を務めるドイツ認識論集の一部として出版社に提出した。以後の査読・校正の手続きが順調に進めば、2023年前半頃に同論集は出版される予定である。ただし、現段階では同論集の出版の可否が確定していないため、これらの論文の書誌情報は「7.研究発表」には記さなかった。 4)昨年度の日本ライプニッツ協会での発表原稿の加筆修正を行い、論文「ヴォルフにおける「理由」と「原因」の区別について――『存在論』における原因概念の二義性を手がかりにして」を作成した。同論文は『モナドから現存在へ――酒井潔教授退職記念献呈論集』の一章として2022年3月に出版された。
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