研究課題/領域番号 |
18K12193
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
辻 麻衣子 上智大学, 文学研究科, 研究員 (40780094)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | カント / テーテンス / 構想力 / 心理主義 |
研究実績の概要 |
平成30年度に実施した研究の主な成果は、以下の2つに区分される。
(1)『純粋理性批判』第1版超越論的演繹論の包括的解釈を、構想力Einbildungskraft概念という新たな視座から提出した。この概念は、18世紀のドイツ講壇哲学において経験心理学の内部で論じられるものだったが、『純粋理性批判』に至って、カントがそれを超越論哲学の枠組みに編入し、両者を架橋する鍵として用いていたことが明らかになった。より具体的に言えば、演繹論を難解にしている元凶の一つであると度々指摘されてきた構想力は、像を生み出す経験心理学的能力として保存される一方で、その像の骨組みとも言える「形態Gestalt」を像あるいは経験に先立って生み出す超越論的能力としても想定されているのである。このようにしてカントは、構想力概念をもって経験心理学と超越論哲学とを接続しようと企てていたのだと考えられる。 (2)テーテンスの『人間本性とその展開についての哲学的試論』の読解により、彼の認識能力論の体系を析出し、カントのそれとの比較検討を行った。テーテンスは人間の認識能力を表象力と思考力に区分し、前者をさらに知覚力、想像力、創作力に分けた。この三区分は後にカントに継承されたが、カントは創作力の代わりに統覚を挙げている。とはいえ、カントの統覚概念が担う、意識の統一をなす能力をテーテンスが全く考えていなかったわけではなく、思考力の一部門である「認知Gewahrnehmen」「識別Auskennung」にそのような役割を割り振っていたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第1版演繹論の解釈、テーテンスの認識能力論の分析、および初期新カント派における心理主義の解明については一定の成果を得られたが、第2版も含めた演繹論の心理主義的側面の明確、カントとテーテンスとの影響関係については当初の予定に後れを取っているため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
第2版演繹論の内在的研究をさらに進め、テーテンスの「認知」概念も交えながら、カントとテーテンスの認識能力論をより広範な視点から検討する。また、19世紀中葉から20世紀初頭にかけての新カント派との関連についても、本格的に研究を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた研究大会・資料収集のための出張が行えなかったため。
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