研究課題/領域番号 |
18K12196
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
林 誓雄 福岡大学, 人文学部, 准教授 (20736623)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マイケル・スロート / ハーストハウス / スワントン / 幸福 / 徳 / 道徳的完成 |
研究実績の概要 |
本年度は、スロートの感情主義的自然主義と他の自然主義的アプローチとを、あらためて比較検討した。具体的には、ハーストハウスの「エウダイモニア主義」と、スワントンの「多元主義」とを取り上げ、それらに対して、スロートの「感情主義的自然主義」はどこまで優位に立つと言えるのか、研究会にて報告することで検討した。 その検討においては、研究会参加者より、一元論的なハーストハウスに代表されるエウダイモニア主義の方が、現代の倫理的諸問題への応用には適しているのではないか、というコメントが複数寄せられた。他方で、スロートの近著『The Impossibility of Perfection』を精読した結果、徳の目的である「幸福」の捉え方によって、理論それ自体の妥当性が問われることも明らかになりつつある。具体的には、われわれ人間が、自身の「徳」をすべて磨き上げることで、「完成」に至ることができると、理論上想定しているかどうかで、理論の妥当性を問うことが可能であるかもしれない。スロートが取り上げる従来の理論、なかでも特に「エウダイモニア主義」では、そのような「完成」は人間に可能であるとされている一方、スロート自身は、徳どうしが衝突しうること、その衝突は「思慮」などの支配的徳によっては解消が不可能であることを理由に、「徳・人間・幸福の完成」は不可能であると断じている。ただ、この論点についてはそれがどこまで妥当であるのか、検討しなければならない。以上から、本年度の研究の成果として、引き続きスロートとそれ以外の理論との比較検討を、本年度の研究で加わった新たな論点を踏まえた上で継続する必要がある、ということになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、スロートの理論と、その他の理論との比較検討を重ねて行うことができており、また、スロートの近著の精読により、新たな検討課題も浮上している。新型コロナウイルスの影響により、年度末の研究会が、当初の予定通りに行かない面もあったが、それでも研究それ自体は、計画通り進行しているために、「概ね順調に進展している」と評価されるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、スロートの理論とその他の理論とを比較検討するが、その際には、「幸福・徳の完成」が可能であるかどうか、という論点を重点的に考察・検討する。それと同時に、応用倫理学的な問題に対して、スロートの理論がどこまで有効な提言を与えることができるのか、考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に、研究会を開催する予定であったが、新型コロナウィルスの影響により、研究会へ招聘する予定であった研究者が、急遽参加を取りやめたために、旅費支払いがなくなってしまったことと、自身が年度末の学会(日本イギリス哲学会大会)に参加し、そこでセッションを持つ予定であったが、こちらも新型コロナウィルスの影響により、学会自体が延期・中止となったために、旅費を使用できなかったため。 今年度も、新型コロナウィルスの影響で、出張などを自粛しなければならないために、旅費などでの支払い予定のものを、当初の予定とは異なる仕方に変更しなければならない可能性がある。とはいえ、年度始まりであるため、今後の見通しが立てづらく、使用計画については、今のところ、当初の予定通りとする他はない。
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