研究課題/領域番号 |
18K12200
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
工藤 量導 (クドウリョウドウ) 大正大学, 仏教学部, 非常勤講師 (60624674)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中国仏教 / 中国浄土教 / 慧影 / 大智度論 / 浄穢 / 地論宗 / 仏身仏土論 / 雑義記 |
研究実績の概要 |
本研究は、中国の南北朝期から隋唐代における仏教者の共有テーマであった「仏土の本質をめぐる浄穢の議論」を取り上げ、その思想展開史を描き出すことを目的とする。 平成30年度は浄穢の議論にふれる南北朝期から隋代までの具体的な文献として、①羅什釈『維摩経』『法華経』、②僧肇『注維摩詰経』、③『雑義記』、④菩提留支訳『金剛仙論』、⑤『融即相無相論』、⑥慧影『大智度論疏』(道安『浄土論』の逸文あり)、⑦慧遠『大乗義章』「浄土義」を取り上げて分析・検討し、文献の相互関係に留意しつつ思想史的な流れを素描した。その成果として、「中国仏教における仏土の本質をめぐる浄穢の議論」(『仏教学』60、2019)と「浄影寺慧遠『大乗義章』「浄土義」に説かれる浄穢の議論について」(『印仏研究』67-2、2019)を出すことができた。その結果として、おおよそ以下のことが明らかになった。 まず、中国仏教における浄穢の議論は①の羅什訳『維摩経』の心浄土浄説および『法華経』の霊山浄土説の解釈をめぐって、羅什およびその門下において勃発したとみられる。その論点が②③の文献に継承されながら議論を重ね、④の文献で「一質異見」「同界異見」などの四字一句で諸師の立場が示されるようになる。⑤の文献では三土説や法界縁起などの地論宗の学説による影響も垣間見え、⑥の文献では浄穢の共存問題について、彼(仏の側)と我(衆生の側)という視点を導入して詳細な考察が加えられた。以上のような議論の蓄積をふまえて、道安『浄土論』の浄穢に関する三句の存在を南北朝期の思想展開史上に位置づけることができたのは大きな収穫であった。 ⑦の文献について、報告者は当初、⑥の文献よりも後の成立と当然視していたが、近年の慧遠著作に関する研究進展により、その前後関係を見直す必要がある可能性があることに気づかされた。この点は引き続き、課題として研究を続けてゆきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成30年度は慧影『大智度論疏』の基礎的研究を中心とする予定であったが、仏教思想学会および日本印度学仏教学会での研究発表という貴重な機会が得られたため、次年度において着手を検討していた南北朝期における浄穢の議論の思想展開に関する研究を、やや先取りする形で優先的に進めた。とりわけ仏教思想学会は、一般的な学会よりも研究発表の持ち時間が長く、かつ一部会制であって、さまざまな分野の研究者と意見交換ができたため、研究の進展にたいへん有意義であった。 上記の理由により、慧影『大智度論疏』の基礎研究の整理はやや遅れているが、浄穢の議論の核心部分については精読を試みたうえで検討を加えることができた。さらに前後の時代の文献との対照研究を通じて、『大智度論疏』の論述内容が南北朝期の教理学に根差していることが明確になったため、全体としてみれば順調に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、平成30年度の研究計画として予定していた慧影『大智度論疏』の基礎研究をさらに進める。また、浄穢の議論に関する隋代の文献として智顗『維摩経文疏』や吉蔵の各著書を分析・検討し、前年度までに検討を行っていた南北朝期における議論とどのような連続性を見出すことができるのか考察を進めてゆきたい。とくに浄影寺慧遠、智顗、吉蔵は仏身仏土論などの諸議論においても互いに関連性があるため、その点も留意しながら精察を加えてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に繰り越した使用額はわずかである。中国仏教に関連する図書費として使用する予定である。
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