研究課題/領域番号 |
18K12203
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
石田 尚敬 愛知学院大学, 文学部, 准教授 (80712570)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インド仏教 / 仏教論理学 / 知識論評釈 / ダルマキールティ / サンスクリット語文献学 / プラマーナ |
研究実績の概要 |
本研究では、インド仏教の伝統にあって、認識論・論理学を大成したダルマキールティ(法称、7世紀頃)の最初期の著作、『知識論評釈』(プラマーナ・ヴァールッティカ)第1章(推理論)の本文およびその諸注釈書について、原典写本に基づく校訂・解読研究を実施し、仏教認識論・論理学研究における基本資料の整備を目的としている。 本年度は、研究開始年度にあたり、『知識論評釈』本文について、インド・グジャラート州パタン市のジャイナ教僧院において研究代表者が自ら撮影したカラーの写本写真を用い、原典テキストの異読調査を行った。同時に、ダルマキールティの後期の著作『知識論決択』(プラマーナ・ヴィニシュチャヤ)が、『知識論評釈』のテキストを大量に再利用していることから、中国蔵学研究中心(China Tibetology Research Center、北京)とオーストリア科学アカデミーとの国際プロジェクトのもと、シュタインケルナー教授によって2007年に公刊された『知識論決択』第1章(知覚論)及び第2章(推理論)のサンスクリット語原典テキストを参照し、『知識論評釈』とのパラレル・テキスト(並行文)の考察を行った。さらに、ニヤーヤ派のバーサルヴァジュニャ著『ニヤーヤ・ブーシャナ』など、『知識論評釈』本文を引用する他学派の文献も併せて調査し、『知識論評釈』本文テキストの異読調査を行った。 また、ラーフラ・サーンクリッティヤーヤナ氏によってチベット自治区で撮影された、『知識論評釈』に対する注釈書(著者不明)のサンスクリット語原典写本について、解読作業を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、インド仏教の伝統にあって、認識論・論理学を大成したダルマキールティの『知識論評釈』(プラマーナ・ヴァールッティカ)第1章(推理論)の本文およびその注釈書類について、原典写本に基づく校訂・解読研究を実施し、仏教認識論・論理学研究における基本資料の整備を目的としている。 研究開始にあたる本年度は、まず『知識論評釈』本文について、サンスクリット語原典テキストの異読調査を実施する計画であり、インド・グジャラート州パタン市のジャイナ教僧院において研究代表者自ら撮影したカラーの写本写真を用い、異読調査を行った。同時に、『知識論評釈』のテキストを大量に再利用しているダルマキールティ後期の著作『知識論決択』(プラマーナ・ヴィニシュチャヤ)のサンスクリット語原典テキスト(2007年刊)や、『知識論評釈』のテキストを大量に引用するニヤーヤ派のバーサルヴァジュニャ著『ニヤーヤ・ブーシャナ』など参照することで、より豊富な異読情報を収集することができた。本年度実施したこれらの研究は、おおむね当初の研究計画に沿ったものであり、次年度以降に予定している『知識論評釈』注釈書の研究において、基礎となるものである。 また、ラーフラ・サーンクリッティヤーヤナ氏によってチベット自治区で撮影された、『知識論評釈』に対する注釈書(著者不明)のサンスクリット語原典写本について、一部の解読作業を開始できたことは有意味であったが、不鮮明な箇所が多く残るモノクロ写真であることから、より鮮明な複写資料の入手が望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画2年目以降は、『知識論評釈』本文テキストの異読調査を継続しつつ、『知識論評釈』に対する注釈書の研究を進める予定である。まずは、ラーフラ・サーンクリッティヤーヤナ氏によってチベット自治区で撮影された、『知識論評釈』に対する注釈書(著者不明)について、解読研究を実施する。本写本は、ラーフラ・サーンクリッティヤーヤナ氏が1930年代にチベット自治区で撮影したものであり、ネパール・パトナ市の研究所にネガが保管されていたが、現在では、ドイツ・ゲッティゲン大学に複写が保管されている。ゲッティゲン大学所蔵資料については、バンドゥルスキー氏(F. Bandurski)によるカタログも公開されたことから(1994年)、研究者に利用可能となりつつあり、研究代表者も、当該写本の複写を既に入手しているものの、より精度の高い解読作業のため、複写資料の状態を実際に調査し、その場で解読するとともに、より精度の高いコピーを入手したい。 また、カルヤーナ・チャンドラ(年代不詳)のものと推定され、引用断片のみが知られる『知識論評釈』注釈書に対し、ジャイナ教徒の手になる著作をより広範囲に調査し、新たな引用テキストの調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、ドイツ・ゲッティンゲン大学図書館での資料調査を予定していたが、渡航期間として予定していた2019年2月から3月の間、当該図書館が長期休館となったため、調査を次年度に延期したことにより、次年度使用額が生じた。
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