本年度は本研究課題の最終年度となり、これまで収集してきた資料やテクストの分析を進め、研究成果として発表すると同時に、本研究課題としてこれまで遂行してきた研究の総括を行った。 本研究課題は、東方キリスト教を代表する思想家による「説教」の分析によって、各思想家の司牧者としての一面に光を当て、その中で展開される東方キリスト教独自の人間観について、 彼らの哲学的・神学的著作からは見いだせなかった新たな解釈を提示するとともに、その時代的社会的背景をも含めて多面的に考察することを目的とした。その中で、「神の像と似姿」として創造されたとされる東方キリスト教的人間観や、原罪観、女性観(聖母マリア理解を含む)などの重要概念について、また、東方的司牧観について、ニュッサのグレゴリオスやヨアンネス・クリュソストモスを中心とした古代から、ダマスコのヨハネを経て、グレゴリオス・パラマスやイシドロスらビザンツ帝国末期の思想家に至るまで、通時的に概観することができた。とくに、ビザンツ帝国末期の思想状況をめぐっては、フィロテオス・コッキノスによる『パラマスの生涯』や『イシドロスの生涯』、ニケフォロス・グレゴラスおよびヨアンネス・カンタクゼノスの両者による『歴史』、公会議文書など複数の歴史的資料から窺える当時の社会状況を併せて分析することによって、ラテン帝国から帝都を奪還したビザンツ帝国最後の王朝パライオロゴス朝における人文主義的潮流やカトリック(主にドミニコ会)・イスラーム勢力、当時大きな被害をおよぼしたペストの流行、ゼーロータイと呼ばれる社会運動に正教がどのように向き合い、思索を展開してきたか、その一端を解明にすることができた。また、期間中に二度の国際シンポジウム主催や在外研究、国際学会等での発表の場で、国際的研究交流を飛躍的に進めることができた。
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