研究課題/領域番号 |
18K12207
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
小布施 祈恵子 神戸市外国語大学, 外国学研究所, 客員研究員 (90719270)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 上座仏教 / タイ / 布教 / 改宗 / イスラーム / 東南アジア |
研究実績の概要 |
2019年度は初年度に引き続き、タイ・マハーチュラロンコーン仏教大学における海外派遣僧プログラムに関する調査を行った。今年度の焦点は同プログラムのカリキュラム内容の特徴の特定であったが、聞き取り調査を進めるにあたってプログラム運営の目的の背景となる社会的文脈をさらに解明できたとともに、海外派遣僧カレッジがこの目的達成のために現行のプログラムを大幅に改革する過程にあることも判明した。 具体的にはまず1)カリキュラムの目的は海外(主に西洋)に移住したタイ仏教徒コミュニティの宗教・文化的ニーズのサポート、およびこれらの国々における改宗者の獲得といういわば二重構造をなしているが、現行のカリキュラムではこれらの目的に特化した内容は特に設定されていないこと、そして2)特に二つ目の改宗者の獲得という点に関しては運営者の期待通りの成果があがっておらず、このため現在大学院レベルのプログラムの設立に向けた大幅なカリキュラム改革が行われていることが示唆された。 さらにこれと関連して3)改宗者の獲得、つまり仏教徒の数を増加させるということがプログラム運営の目的として近年重要性を増してきており、4)この傾向が少なくとも部分的に、タイ国内のみならず東南・南アジアの仏教社会において近年広がりつつある、イスラームが仏教の存在を脅かしているというような認識に基づいていることが明らかになった。またタイ国サンガの活動の方針が近隣の上座仏教諸国(特にミャンマーとスリランカ)における動向に少なからぬ影響を受けており、海外派遣僧プログラムもその例外ではないことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度に引き続き、2019年度もタイ国内、特にマハーチュラロンコーン大学における聞き取りにおける調査は順調に進んだと言える。一方次年度のための予備調査として英国のタイ上座仏教寺院における調査を予定していたが、COVID-19によるパンデミックの影響で実行することができなかった。 また前項で述べたように、海外派遣僧プログラムの目的・運営方針に関して、近隣の上座仏教諸国の動向を視野に入れた分析の重要性が明らかになったため、東南アジアにおける近年の仏教徒のイスラーム認識および当地の宗教多様性に関する言説のあり方に関する概観的調査を研究計画に追加した。 このような理由により、全体としての進捗状況をやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2020年度は、当初の研究計画では海外派遣僧プログラム修了者が英国のタイ上座仏教寺院においてどのような活動に従事しているかを、特に現地の文化や宗教の扱いや律の土着化に注目しつつ調査・考察する予定である。しかしCOVID-19のパンデミックの影響で、英国での現地調査がどの程度可能になるのかが不透明であることから、当面は英国におけるタイ上座仏教僧侶の布教活動の歴史と現状についての文献調査を行い、可能な範囲で、Eメールなどで現地の寺院関係者に布教活動に関する聞き取りを行う形で研究を進める。 本年度中に現地調査が可能になった場合はその時点でできる限りの調査を行うが、現地調査遂行が不可能または極めて限定的にしか行えない場合は、前項で述べた東南アジアにおける宗教多様性に関する言説の変遷と現状についてさらに重点的な調査を行う。具体的には、仏教とイスラームに焦点を絞り、仏教徒多数派の国としてタイ、そしてムスリム多数派の国としてマレーシアにおける状況を、文献調査をもとに分析し、これらが東南アジアにおける仏教徒とムスリムの関係および相互認識、そして仏教徒の布教活動の試みとどう関連しているかを考察する。
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