研究課題/領域番号 |
18K12213
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
齋藤 拓也 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (70759779)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カント / ルソー / 一般意志 / 普遍的意志 / 集合的意志 / 社会契約 / 政治的自律 / 共和制 |
研究実績の概要 |
今年度は、普遍的意志がカントの道徳哲学に政治の次元を成立させるために不可欠な統整的理念であることを多角的な観点から解明するために、主に以下の三つの点について検討し、それぞれについて成果を得ることができた。 (1)普遍的意志の理念:『理論と実践』(1793年)、『永遠平和のために』(1795年)、『人倫の形而上学』(1797年)と手書きの遺稿を中心に検討し、カントが自由で平等な市民たちであれば、正しいと見なし、同意するであろう決定を行う政治的=集合的意志の理念として普遍的意志を論じていることを明らかにした。 (2)公共体の理念の系譜における「意志の統合」という契機:「目的の国」と個々の理性的存在者の善意志(道徳哲学)、および「倫理的公共体」と神の意志(宗教論)の理念との比較を通じて、カントが集合的意志の理念を「根源的契約」の理念を媒介にして唯一政治社会(市民的体制=共和制)に関連してのみ明示的に導入していることを確認することができた。 (3)集合的意志と政治的自律:カントが集合的意志の概念を政治社会に関する議論に導入した理由を、権利の保障(権利関係の確定)と外的行為の強制(および違反の処罰)、集合的自己決定という政治的自律の根幹に関わる観点から考察した。 以上によって、カントの哲学体系にとって集合的意志は不要な概念であるという見解(Riley 2015)に対して、その理念がカントの政治思想にとって不可欠であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カントにおける「普遍的意志」の概念を、神の意志、善意志との比較検討を通じて考察し、それが理念として有する意義を示すことができた。また、その成果を論文および著書に含めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画にしたがって、理念としての普遍的意志に基づいて、個別の政治社会で政治的意志が形成されうる可能性を解明する作業に着手する。『理論と実践』、『永遠平和のために』および手書きの遺稿を中心に分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究において計画当初に想定していなかった新しい知見を得ることができたが、その知見を用いてより深い考察を行い、研究成果を高めるために、研究計画の部分的な変更が必要になったため。次年度においては、翌年度分として請求した助成金と合わせて、得られた研究成果の公開のために次年度使用額を用いる計画である。
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