研究課題/領域番号 |
18K12213
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
齋藤 拓也 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (70759779)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カント / 一般意志 / 普遍的意志 / 集合的意志 / 社会契約 / 共和制 / 政治的自律 |
研究実績の概要 |
今年度は、カントの政治思想において、理念としての普遍的意志の概念に基づいて個別の政治社会で政治的意志が形成されうる可能性を解明する作業を行った。特に『理論と実践』、『永遠平和のために』および遺稿を中心に分析を進め、次の3点について成果を得ることができた。 (1)「世界共和国」という政治的公共体の理念:普遍的意志の理念と結びついた共和制の理念が、理性の推論の性質上、現実の諸国家の境界線を想定しておらず、普遍的な世界共和国を表象していることを明らかにした。 (2)「世界共和国」のパラドクスと「部分的社会」の成立:人々が世界共和国の成立を意欲して実際に社会契約を締結することはなく、現実には暴力によって各地に専制国家が「部分的社会」として形成され、君主が私的意志にもとづいて支配しているという歴史認識および状況認識をカントがもっていることを確認することができた。 (3)個別の国家における集合的意志形成の可能性:以上で明らかにされた状況のもとでは、人民の統合された意志は(立法権と執行権を分離して共和制を確立する)諸改革を通じて徐々に現れるという見通しのもとで、カントが政治的意志統一を行う立場にある君主(政治家)の意志のあり方、すなわち格率に注目していることを明らかにした。 以上によって、カントは普遍的な理念を提示するだけで、個別国家の「一般意志」の可能性を考察していないという批判に対する有力な反論となりうる考察を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カントにおける「普遍的意志」の理念が、部分的社会としての個別国家において、漸進的改革をつうじて、人民の統合された意志を形成するさいの導きの糸となりうることを考察することができた。また、その成果を論文および著書に含めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
共和制への漸進的改革において君主がなすべき政治的意志統合の仕方に着目して、カントにおける集合的意志形成の諸条件と過程を再構成し、それが改革の結果として実現される共和制においても、政治的自律の維持の条件として意味をなすことを明らかにしたい。
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