共和制への漸進的改革において君主がなすべき政治的意志統合の仕方に着目して、カントにおける集合的意志形成の諸条件と過程を再構成し、それが改革の結果として実現される共和制においても、政治的自律の維持の条件として意味をなすことを次の3点を中心に考察し、雑誌論文の刊行および学会発表を行った。 1.漸進的改革における政治的意志形成の意味:専制下でも君主は「共和主義的統治様式」によって意志決定しなければならないことに焦点をあて、それが特に行為の格率の「公開性」によって成立する事態であることを解明した。 2.私的意志から公共的意志へ:集合的意志の形成と「根源的契約」格率の公開性原理によって問われているのは、君主の「私的意志」が「公共的意志」になることであり、その条件が「根源的契約」の示す立法の原理であること、さらに「言論の自由」によって形成される「世論(公共的意見)」が政治的決定の正当性だけではなく、認知的価値の観点からも重要であることを明らかにした。 3.政治的自律の条件としての特殊的・私的意志からの脱却:最後に、カントが『人倫の形而上学』や準備草稿等で共和制の成立の一つの方法とみなしている議会(代表制)の成立の後にも、公共的意志が適切に形成され、政治的自律が維持される諸条件をカントの英国議会および古代ギリシャ(アテネ)に関する議論から考察した。 以上より、公共的意志の形成は制度的条件の整備に還元されえず、統整的理念にもとづいて私的意志を取り除く不断の努力が求められるというカントの考察を明らかにした。
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