研究課題/領域番号 |
18K12214
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
柳 忠熙 福岡大学, 人文学部, 准教授 (90758202)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 朝鮮知識人 / 崔南善 / 李光洙 / 尹致昊 / 朝鮮的なもの / ナショナリズム / 近代朝鮮文学 / 近代朝鮮思想 |
研究実績の概要 |
①個人研究:今年度は、昨年度に行った1900~1920年代における崔南善の思想と〈朝鮮的なもの〉との関連性に関する研究を、1930~1940年代まで広げて研究を行った。現在2022年12月に刊行予定の『年報朝鮮学』に投稿するために、戦争期における崔南善のアジア認識の変化と〈朝鮮的なもの〉というテーマで研究論文を執筆中である。 ②研究ネットワーク構築:2021年10月22日・23日に韓国・福岡・東京の研究者(渡辺直紀氏[武蔵大学、教授]、田中美彩都氏[西南学院大学、非常勤講師]、潘在泳氏[韓国・高麗大学校、大学院生・博士課程]、田中雄大氏[東京大学、大学院生・博士課程])とともに、オンラインで講演会(22日)と若手研究会(23日)を行った。渡辺直紀氏の講演は、学生と一般市民向けのものであり、日本における韓国文学のブームとその背景とも言えるフェミニズムの問題を、韓国文学の作品と解放後の朝鮮半島の歴史的な文脈とともに説明したものであった。若手研究会では、田中美彩都氏は、朝鮮総督府による朝鮮半島の家族関係調査と同化政策の問題について、潘在泳氏は朝鮮戦争後に出た韓国の小説における反共の表象の問題について、中国文学を専攻とする田中雄大氏は近代中国のモダニズムについての観点を1920~40年代に活躍した中国の文学者について発表した。今回も九州地域の研究者との交流を行うことで、本科研プロジェクトの研究ネットワークの充実化を図った。 ③アーカイブ作業:今年度は、昨年度初訳を終えた1900年代~1920年代の李光洙の論説(訳者:金景彩氏、閔東曄氏)を、波田野節子氏[新潟県立大学、名誉教授]に監訳をお願いし、仕上げ作業を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①個人研究:昨年度同様、当初の今年度の研究計画であった李光洙・尹致昊の1920年代の思想と活動に関する研究は、コロナ禍の影響によって韓国や国内での資料調査の困難もあり、順調に進められていない。また研究者本人の体調不良により研究を進めることが難しい状況でもあった。しかし、こうしたなかでも、これまで行ってきた崔南善の研究を1930~40年代まで広げて研究を行ったことは評価できる。 ②国際研究ネットワークの構築::本科研プロジェクトの開始後より若手研究会を軸とする国際研究ネットワークの構築は順調に行われている。今年度も韓国学の隣接分野の研究者[中国学、田中雄大氏]も参加し、日韓の韓国学研究者の交流とともに隣接分野との研究交流の充実化が確認できた。今回参加した研究者は今後本科研プロジェクトの研究と若手研究会に続けて協力・参加する予定である。以上のように、4年目の今年度にも国際研究ネットワークとその組織の充実化がなされたと評価できる。ただ、昨年度同様、コロナ禍によってオンラインでの講演会・研究会の開催となったことにより、オフラインでのさまざまな研究交流ができず、十分な意見交換および研究者間の問題意識の共有については懸念されるところもある。 ③アーカイブ作業:植民地期における朝鮮知識人の文章のアーカイブ作業は、李光洙の1900年代~1920年代における文章を研究者らの協力を得て行った。尹致昊の場合は同時期に書かれた彼の日記を抜粋して翻訳する予定だったが、①の個人研究の理由に関連し、あまり進捗がない状況であり、次年度(2022年度)の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
本科研プロジェクトは研究計画としては今年度(2021年度)が最終年度であったが、コロナ禍などの理由で研究期間を1年延長を申請し許可をいただいた。2021年度に計画したクロージング・シンポジウムを2022年度に企画し開催する予定である。コロナ禍の終息を見込めない状況であるものの、コロナのワクチン接種率の増加や各国の入出国規制緩和などにより、2022年度後半には海外からの研究者の招聘することも可能ではないかと推測している。そこで、コロナ・ウイルスの感染予防を図りながらオフラインでの集まりを企画するつもりである。 また次年度も引き続き、①個人研究 ②国際研究ネットワークの構築 ③アーカイブ作業を行う予定である。 ①個人研究:1930年代以降の崔南善の思想と戦争協力の問題に関する研究を2022年12月に公刊予定の学術雑誌に投稿する。と同時に、今年度に予定していた③アーカイブス作業に関する李光洙の論説に関する解説も作成する。また今年度に行う予定だった尹致昊の1920年代の活動、とくに日本の植民地統治に関する態度についても研究を行う。尹致昊に関する研究は、日本による植民地統治に関する尹の考えを彼の日記より探り、それを自由主義者・キリスト教徒である吉野作造の活動・思想との比較を通じて検討する。 ②国際研究ネットワークの構築:2022年度には後半(2023年1月~2月)にクロージング・シンポジウムを行う予定である。これまで参加した研究者との交流を深めると同時に、新たに隣接分野の研究者も招待し、研究ネットワークのさらなる充実化と組織化を図り、今後の研究プロジェクトに繋げていく。 ③アーカイブ作業:現在、尹致昊の日記以外の李光洙・崔南善の文章の日本語翻訳は終わっている。引き続き、李光洙・崔年善の文章の翻訳成果を公刊する作業を行なう。また①に関連して尹致昊の日記の翻訳作業も行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で資料調査などの研究関連出張ができなかったことや、海外・国内の研究者の招聘ができなかったことにより、今年度の研究費をほぼ執行することができなかった。ただ次年度にはコロナ禍の状況がすこしでも改善されることを期待して研究課題の延長を申請し許可をいただいた。最終年度である次年度の本科研プロジェクトでは、個人研究およびアーカイブス作業のために研究費を使用するとともに、当初企画したクロージング・シンポジウムをオフラインで企画し、国内および海外研究者の招聘などの費用として使用する予定である。
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