研究課題/領域番号 |
18K12217
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
小柳 敦史 北海学園大学, 人文学部, 准教授 (60635308)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リベラル・プロテスタンティズム / エルンスト・トレルチ / ヴィルヘルム・ブセット / オットー・バウムガルテン / ハンス・ヨアス |
研究実績の概要 |
本研究の内容面としては、前年度から引き継いだ課題である、E・トレルチ、W・ブセット、O・バウムガルテンにおけるデモクラシー論とそれぞれの「人格」理解との関連を、貴族主義や指導者の位置付けに留意しながら分析する作業を進めた。その中で、従来はリベラル・プロテスタンティズムにおいてはあまり積極的な意味を持たないと考えられてきた「魂/心」(Seele)の重要性が浮上してきた。 本研究が理論的な観点から参考にしているH・ヨアスの「肯定的系譜学」についての検討も進めた。ヨアスの提唱する「肯定的系譜学」はCh・テイラーやT・アサドなどのポスト世俗化の流れに位置付けられるものであり、リベラリズムやデモクラシーのプロテスタント的起源の指摘に対する、プロテスタント的伝統からの応答として注目すべきものである。 2023年2月には、本研究の主要な研究対象であるエルンスト・トレルチの没後100周年を記念する研究大会がエルンスト・トレルチ学会の主催によりベルリンで開催された。私もこの大会に参加し、トレルチをはじめとするリベラル・プロテスタンティズムを今日において研究する意義について、参加者と議論を交わした。議論を交わした相手には、上記のH・ヨアスも含まれる。 トレルチの没後100周年と関連して、近年のトレルチ研究をリードしてきたF・W・グラーフが広範な評伝『エルンスト・トレルチ 世界地平の中の神学者』を出版した。本書の内容は本研究とも非常に関連が深いものであり、ドイツのリベラル・プロテスタンティズムについて理解するための重要文献であるため、本研究の一環として訳出を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は本来、2021年度で終了する計画であったが、Covid-19の流行や業務の多忙により進捗が遅れてしまった。現在のところ、当初予定していた考察対象のうち、ラーデとハルナックについての考察ができていないが、代わりにブセットについての考察を進めている。また、理論的な考察としてヨアスの「肯定的系譜学」の分析を進めており、これは当初の計画に含まれていなかった成果となる。以上より、当初の計画に相当する内容は概ね達成できているものの、成果をまとめるに至っておらず、さらに1年間研究期間を延長した。当初の予定より2年間の期間延長をしていることを鑑みて、現在までの進捗状況は〈遅れている〉と判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は2年の期間延長を経た上での研究最終年度として、これまでの研究成果のまとめと公表を行う。トレルチ、ブセット、バウムガルテンのカーライル評価を通してリベラル・プロテスタンティズムにおけるデモクラシー理解をまとめた成果を日本基督教学会の学術大会で、トレルチにおける人格と魂の問題についての研究成果を日本宗教学会の学術大会で発表し、そこでの質疑を経て論文化する。さらに、ヨアスの「肯定的系譜学」の内容と意義を紹介する論考を学内紀要等に発表する。残された時間で、グラーフの『エルンスト・トレルチ 世界地平の中の神学者』の訳出を進めるが、これは原著で600頁を超える大著であるため、必ずしも本研究期間内の完成は目指さない。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間を1年延長した2022年度が最終年度となる予定であったが、研究成果をまとめるに至らなかったため、研究期間をさらに1年延長した。このため、研究成果のまとめと発表の段階で必要になる予算を使用しなかった。次年度使用額は、最新の研究動向の把握や研究成果の発表のために使用する予定である。
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