2023年度は、2021年度に着手していたドイツのリベラル・プロテスタンティズムにおけるカーライル受容の分析と、2022年度に課題として浮上したリベラル・プロテスタンティズムにおける「魂/心」(Seele)の意味の検討を行った。 カーライル受容については、これまでに分析していたヴィルヘルム・ブセットとオットー・バウムガルテンに加え、アドルフ・フォン・ハルナックとエルンスト・トレルチのカーライル論も分析し、1)カーライルをどのように受容したかに注目することで、リッチュル学派と宗教史学派の対立という定型的な図式よりも繊細に神学者たちの布置を描くことができること、2)カーライルの議論が歴史観、教会論、政治的指導者への待望など様々な点においてプロテスタント神学者のインスピレーションの源になっていたこと、3)カーライルの〈英雄崇拝〉論はかなり単純化されて受容されており、そのように単純化された英雄論に対して批判的な距離を保っていたトレルチの思想がむしろ、カーライル自身の〈英雄崇拝〉論に近いものであったこと、の3点が明らかとなった。 「魂/心」については通常、ドイツのリベラル・プロテスタント神学においてはリベラルな人間理解の根本にある「人格性」が中心概念であり、「魂/心」の議論は不在であると論じられてきた。しかし、晩年のトレルチのテクストを分析すると、「人格性」によっては説明できない他者との違いを理解することを可能にする概念として、万有精神の分有としての「魂」の重要性が論じられていることが明らかとなった。そして、それぞれに異なる個性をもった人間の共同として社会を捉えることは、トレルチの民主主義論の根幹でもある。同時期にヴァイマール共和国に批判的な保守革命論者から提出されていた「魂」論との比較も含めて、リベラルな思想家たちの「魂」論に注目する必要性が明らかとなった。
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