最終年度である2023年度は、過去のCOS研究では手薄であった(1)COSとフェミニズムの関係、および(2)ロンドン以外のCOSの活動と思想の特徴、の2点を分析した。双方にまたがる研究対象としてリヴァプール出身のフェミニスト・慈善活動家・政治家のエレノア・ラスボーンに焦点をあて、ラスボーンの生涯と活動に関する二次資料の分析、一次資料(著作、パンフレット、新聞記事、私的手紙類等)の取得・読解を進めた。研究成果の中間発表として、社会思想史学会(2023年10月)およびPolitical Studies Association(2024年3月)で、それぞれ研究発表を行った。 研究期間全体の成果としては、COSの中心的活動家たちの思想と実践の特徴を、同時代の政治・社会思想史的文脈に置きつつ解明することができた。具体的には、以下の4点を明らかにした。(1)世紀転換期イギリスのリベラリズムに二つの特徴を見出し、T.H.グリーンの思想においては統合されていたそれらの特徴が、COSとニューリベラリズムにそれぞれ分岐して継承された事を示した、(2)C.S.ロックとバーナード・ボザンケの福祉思想を、貧困をめぐる政治イデオロギー間の対立軸の上に位置づけることができた、(3)イギリス理想主義思想のCOSの実践面への影響を、ヘレン・ボザンケの社会福祉実践論に注目しつつ解明した、(4)COSの社会福祉思想を世紀転換期イギリスのシティズンシップ思想史の中に位置付けた。(1)から(3)は日本語および英語の論文として公刊された。(4)の成果は国際ジャーナルへの投稿論文として現在準備中である。
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