研究課題/領域番号 |
18K12219
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
平田 周 南山大学, 外国語学部, 准教授 (00803868)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アンリ・ルフェーヴル / プラネタリー・アーバニゼーション / 空間論 / スケール / 都市への権利 / 民主主義 / 市民権 / 人権 |
研究実績の概要 |
本研究は、都市研究の分野で今日においても主要な理論的地位を占めるアンリ・ルフェーヴルの空間論、そのなかでもルフェーヴルが晩年に提起した「都市的なものの地球化」のインプリケーションを解明することを目的とするものである。そのために、次の三つの観点を相互に関連づけながら研究を進めている。 (1)この主題に関するルフェーヴルのテクスト読解。 (2)ルフェーヴル空間論を参照して展開される英語圏の「プラネタリー・アーバニゼーション」研究の批判的検討。 (3)都市化とグローバル化の相互作用が進展するなかで改めて議論の俎上にのせられる市民権の概念についての研究。 2020年度の報告者の研究では、主に(2)と(3)に関する研究を進めた。まず、横浜国立大学都市科学部によって編纂された『都市科学事典』の執筆項目「プラネタリー・アーバニゼーション」では、英語圏におけるこの研究の概要をまとめ、『現代思想』の論考「広範囲の都市化を通じたウイルスの伝播」では、同じ研究の枠組みで現在進行中の新型コロナウイルス感染症を分析した成果を検討し、『ユリイカ』に掲載された論考「現実の空間と空間の表象」では、プラネタリー・アーバニゼーションを巡る地理表象をめぐって、フランスの思想家ポール・ヴィリリオと写真家レイモンド・ドゥパルドンを企画責任者として開かれた展覧会「故郷(Terre Natale)」との関連で考察した。また刊行は年度をまたぎ2021年4月15日となったが、論文集『惑星都市理論』において、上記(3)に関わる都市への権利に関わる論文を執筆し、政治哲学者クロード・ルフォールの民主主義と人権に関する議論およびエティエンヌ・バリバールの市民権論との関連で、ルフェーヴルの都市への権利概念の含意を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
依頼原稿等を通して、プラネタリー・アーバニゼーション研究の動向、都市への権利と民主主義や人権との関連について成果を公表することができた点において、着実に研究を進展させることができたと言える。 また上記の研究実績に書くことのできなかったものとして、人文地理学会の地理思想研究部会での発表と科学技術論を専門とする塚原東吾教授との対談がある。発表の機会を与えて頂き、これまでの自らの研究について地理学や科学技術論などの専門家の方々から有益な議論を交換できたことは、思想史と地理学など広義の都市研究との接点を結ぶことを指向する本研究の性格から、励みになった。こうした異分野との共同作業が、コロナ禍ではあれ、進めることができた点も評価したい。他方で、海外での研究者の交流や文献調査が今年度も思うようには進まなかった。うまくオンライン上での国際シンポジウムを組織するなどして、国外へ研究成果を発信する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの3年間継続して行ってきた研究の成果は、着実に蓄積されている。本研究の最終年度となる2021年度は、これまでの研究の蓄積を総合して著作を刊行することを考えたい。この目的を実現するために、本研究で得られた視座から本研究以前に報告者が行ってきたルフェーヴル研究をまとめる作業を行いつつ、上に記した本研究の三つの視点の(1)を掘り下げる。 この作業と並行して、【現在までの進捗状況】で記したとおり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴って、滞っている国外の研究者との交流を促進するために、オンライン上での国際シンポジウムの組織を企画したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度から新型コロナウイルス感染症が拡大したため、当初予定していた旅費や謝金を使用することができなかった。2021年度は、感染状況は継続すると想定した上で、旅費を極力減額し、その分を書籍やオンラインのためのパソコン周辺機器など物品費にまわす。また発表や論文に必要な資料の収集・整理のために不定期でアシスタントを雇用し、謝金を支払う計画である。
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