研究課題/領域番号 |
18K12227
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
小泉 順也 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (50613858)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナビ派 / 展覧会 / コレクション |
研究実績の概要 |
2019年度は、2018年度に世界各地で開催されたナビ派に関連する展覧会を考察の手掛かりに、現代におけるナビ派受容の様相を考察した。今後の研究進展のために、計12日の海外調査(ロンドン、アムステルダム、パリ)を実施した。 1.2018年夏に東京の国立新美術館で開催された「ピエール・ボナール展」は、1968年に企画された「ボナール展:生誕百年記念」に続く、日本の国立美術館で開催された半世紀ぶりの回顧展であった。フランスと日本の美術館における作品所蔵の変化、出品作品の所蔵先の分析などを通して、両国におけるボナールの受容を検証し、日本の美術館が果たした一定の貢献を確認した。上記の研究成果を紀要論文で発表した。 2.アラブ首長国連邦のルーヴル・アブダビにおける2018年秋の「日本の親和性」展では、数多くのナビ派の作品が出展された。日仏美術学会主催のシンポジウム「ナビ派の現在」における招待講演で、同館の開館をめぐる文化政策を分析した上で、同展を批判的に検証した。ナビ派関連の展覧会を開催するときのアラブ圏に特有の問題点を浮き彫りにした。 3.「ナビ派の2019年」と題したワークショップを一橋大学で開催した。2018年から2019年にかけて世界各地で開催された14にも及ぶ関連展覧会を紹介し、ナビ派に注目が集まっている現在の現象を計4本の研究報告を通して検証した。報告者は、オルセー美術館で2018年春に開催された展覧会の成果に基づき、セリュジエの《タリスマン》を中心としたナビ派の誕生をめぐる神話の形成過程を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日仏美術学会で2019年6月に開催したシンポジウム「ナビ派の現在:近年の展覧会と研究動向の回顧」は、本研究を総括するかたちで計画していたものになるが、開催の条件が整ったので前倒しで実施した。学会の総会開催に合わせた日程であったため、多くの反応が得られた。日仏美術学会が主催するシンポジウムとしては、ナビ派を中心的なテーマに据えた最初の企画となった点も評価できると考える。招待講演では2017年にアラブ首長国連邦に開館したルーヴル・アブダビを取り上げたが、それを紹介する試みとしては関連学会の中でも早いタイミングとなり、グローバル化する美術館の動向を印象付ける機会となったと思われる。 あわせて、2019年12月にワークショップ「ナビ派の2019年」を開催した。これは先のシンポジウムの内容を踏まえて、世界各地で開催された関連展覧会に焦点を絞り込んだ企画であった。日本各地の美術館に勤務する学芸員の参加もあり、今後に繋がる活発な議論と有益な情報共有が実現した。 『人文・自然研究』(14号、2020年3月)に掲載した論文「ピエール・ボナールの受容をめぐる一考察 :日本で開催された展覧会の分析から」においては、第二次世界大戦後に日本で開かれた一連の展覧会を受容研究の枠組みの中で分析できることを、ボナールを一例とするかたちで論証した。これは2018年に東京の国立新美術館で開催されたボナール展を考察の対象としており、現在におけるナビ派受容の一端を示す格好の機会となった。 以上の研究実績から、2019年度の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度はフランスにおける研究調査の実施を予定している。ただし、渡航や滞在が困難な場合は、日本国内の美術館を対象とした調査に変更する。大原美術館(倉敷市)、ヤマザキマザック美術館(名古屋市)、上原美術館(下田市)などが候補となる。国内の移動も制限される場合は、ナビ派に関わる芸術家の国内所蔵作品をインターネットのリソースを使って網羅的に調査する。その後に文献調査や現地調査を実施し、現在の所蔵状況を正確に把握する。その際に、入手が困難であるカタログレゾネの購入も検討する。 新たな調査が難しいときには、現在入手している資料に基づいて、2020年度はポール・セリュジエの《タリスマン》に関する研究論文を、一橋大学大学院言語社会研究科が刊行する『言語社会』に投稿する。2021年度はシンポジウムを開催する予定である。現時点で先行きは不透明な部分があるが、当該分野の研究者と連絡を取りながら準備を進める。そして、これまでの成果をまとめるかたちでのイベントの開催と論集の刊行を目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の図書購入に関して、2019年度末までの納品ができない可能性があり、2020年度の購入に回した。
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