新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて研究期間を2022年度にまで1年間延長した。海外への渡航規制が続く中で、2022年5月静岡県立美術館、愛知県美術館などに出張し、ナビ派やその周辺の芸術家の所蔵作品を調査する機会を設けた。とくに愛知県美術館では「2022年第1期コレクション展」を見学し、新収蔵作品であるモーリス・ドニ《花飾りの船》(1921年)を熟覧した。本作は大原美術館の創設者である大原孫三郎の旧蔵作品であり、画面に描かれた日本の国旗は大原への敬意の表れと解釈されている。そのような意味で、日本の美術館のフランス近代美術コレクションを考察する際に鍵となる作品が、今回場所を変えて愛知県美術館に収蔵されたことの歴史的意義を確認した。 また、2022年11月フランスのパリで調査研究を行った。3年ぶりの海外出張の機会を活かして、オルセー美術館資料室及び図書室でナビ派の芸術家の受容に関する調査を実施した。例えば、モーリス・ドニの《緑のキリスト》(1890年)は色彩と形態の抽象化が進んだ同時期の重要な作品である。本作は長らく遺族の手元に置かれていたが、2020年オルセー美術館に寄贈されたため、このタイミングで来歴を含めた調査を行った。 2023年2月28日に東京大学駒場キャンパスで開催された国際シンポジウム「芸術作品の流通と美術コレクション形成-通時的/共時的分析とデータベース」において、「日本の美術館におけるフランス美術コレクション」と題した研究発表(招待あり)を行った。この発表では日本の美術館を対象としたコレクションを可能な限り網羅的に紹介した上で、日本における作品収蔵の歴史的特徴、今後の研究課題を提示したが、ナビ派の国内作品調査をすでに実施していたために内容のまとめが可能となった。これらの成果は今後論文等のかたちで発表する予定である。
|