研究課題/領域番号 |
18K12228
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 春緒 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任研究員 (80814376)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ジョーリー / タブラー / ナムダーリー / シク教 / キールタン / 宗教歌謡 / 北インド古典音楽 / パンジャーブ |
研究実績の概要 |
本年度は、8月9日~19日の間、研究代表者が初年度にインターネットのレッスンを通じてジョーリーを習っていた、インド人音楽家ギャーン・シン・ナムダーリー氏に会うため、北西インドのパンジャーブ州ルディアーナに赴いた。ルディアーナでは、ギャーン氏が所属する宗教コミュニティであるナムダーリー派の総本山シュリー・ババニ・サーヒブを訪れるなど、ジョーリーを使用した音楽が演奏されている社会空間の調査と、ナムダーリー派の宗教歌謡ナムダーリー・キールタンの録画を行った。また、ギャーン氏からはジョーリーのレパートリーを約30分ほどのソロ・パフォーマンスとして、構成してもらい、それぞれの奏法の習得を試みた。その内容は、帰国後京都の寺町にある民族音楽コイズミ楽器において披露するとともに、その特徴についてタブラーとの比較で言語化した。一つのレパートリーを細かく分析するよりも、一つの流れとして実際のパフォーマンスに構成したのは、ジョーリーの奏法がどのように即興演奏されているのかであったり、タブラーよりも低い音で荘厳な印象を与えるジョーリーの楽器的特徴が流れの中でどのように編み出されているのかを奏者の視点から感じ取る目的をもっていた。結果としわかったことは、ジョーリーの一つ一つの奏法は、タブラーのように指の細かな動きではなく、手首を大きく使ったダイナミックなものであること、音量は大きいが、早いテンポで演奏することは難しいことなどである。また、アーター(小麦粉を練った生地)を打面にはって演奏する低音太鼓ダマーの奏法はタブラーの低音太鼓バーヤンとは大きく異なっている。具体的には音程を細かく変化させるような技巧的奏法ができないことで、より直線的な低音を奏でることになる。このような音の分析には音波測定などが有効であるかもしれない。最終年度の課題としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は、ギャーン氏に実際に会いに行って、直接、教えを受けることができたのは、本研究にとって大きな前進であった。 また、ジョーリーをコルカタにある楽器工房から取り寄せたことで、さらに深くレパートリーを習得する意欲を持つことになった。 一方で、タブラーをメインに演奏してきた代表者にとってはジョーリーの奏法は、一筋縄ではいかない部分も多く、習得のスピードにばらつきがあった。 しかし、何が得意で何が苦手かをみると、タブラーの奏法との関連性を理解することができる。実践の理論の双方から分析することがようやくできてきたと感じている。
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今後の研究の推進方策 |
さらに、自分が初めてジョーリーの演奏を人前で行う経験から、ジョーリーが観客に与える印象がどのようなものであるのかを漠然と理解した。 しかし、パフォーマンスは得てして、印象論になってしまうため、それを裏付けるものとして音波測定などの確固たるデータを取ることも重要であると認識した。 そのため、最終年度では楽器の音波の測定をもとにタブラーとジョーリーの楽器から見た相違点を探っていきたい。さらにギャーン氏から、毎週インターネットを通じたジョーリのレッスンを受け、それぞれのレパートリーを記譜し、それぞれの特徴をタブラーとの比較から考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
インドでのフィールド調査が思ったよりも経費がかからなかったこと、本研究に関する文献資料が少なく当初予定していたよりも文献資料の購入費がかからなかったことなどが理由である。
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