最終年度は、主に研究成果の発表を行った。1)京都大学イスラーム地域研究センター国際ワークショップ、2)東洋音楽学会第73回大会 における発表では、18世紀のペルシャ語音楽書の比較研究をもとに、北インド古典音楽のリズム理論の変容過程についての分析結果を報告した。 1)では、18世紀に西北インドのカシミールにおいて書かれたペルシャ語音楽書、『タラーナ・イエ・スルール』におけるインドとペルシャのリズム理論の文化融合について、各リズム型の比較から分析した。結論として、本書に書かれているリズム理論はインドとペルシャのリズム理論の両者の特徴を持つリズム理論であることを述べた。本発表の内容は、『イスラーム世界研究』第16巻(2023年3月)に寄稿した。 2)では英国図書館に所蔵されている18世紀に北インドで書かれた『タブラー理論体系書』にある打楽器タブラーの奏法やリズム型の理論体系を、現在の北インド古典音楽のリズム体系と比較することで、歴史的に明らかにした。本研究ではラーガを擬神化したラーガ・マーラーの伝統に類似した太鼓の打音を擬神化する伝統があることなど、現在のターラ理論とは大きく異なる理論体系が発展していたことを示し、北インドのリズム理論体系の歴史的多様性について包括的にまとめた。 研究期間全体を通じては、ジョーリーとタブラーをそれぞれインドの師匠に師事し、そのレパートリーを蓄積していった。特に奏者自体が大変少なく、ほとんど先行研究がないジョーリーについての研究を深めたことで、18世紀以降にタブラーが北インドで演奏されはじめ、ペルシャとインドの文化融合によってリズム理論が変容していく過程を、楽器の変化と関係づけて分析することができた。それにより、理論と実践を結びつける音楽研究の一つの礎を構築することができた。
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