研究課題/領域番号 |
18K12235
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
後藤 隆基 早稲田大学, 坪内博士記念演劇博物館, 助教 (00770851)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 新派 / 新聞小説 / 大阪文化 / 高安月郊 / 東アジア文化圏 |
研究実績の概要 |
平成31(令和1)年度は、明治30年代の京阪における文化人ネットワークと同時代演劇の関係のなかでも、とくに新演劇(新派)の動態について調査を進めた。 前年度から継続して、高安月郊の未紹介書簡(約10通)の整理・調査をお行い、翻刻作業を進めている。 京阪における演劇文化の展開を主導した、京都帝国大学図書館長で英文学者の島華水翻案の『マクベス』(シェイクスピア原作)などにおける東アジア表象の問題について「〈未来〉の表象:明治期の東アジアと日本演劇」と題する国際学会(2019 2nd International East Asia Next Generation Researchers Forum、2019年10月26日、翰林大学日本学研究所)での発表を行い、韓国・中国・台湾の研究者との議論を通して問題を深化することができた。また、研究代表者が所属する早稲田大学演劇博物館において「新派の〈芸〉を語る:初代水谷八重子の記憶とともに」(2019年12月16日、早稲田大学)を企画・開催し、二代目水谷八重子、波乃久里子のお二人をお招きして具体的な証言を伺えたことも、現場と研究の架橋という観点からも重要な成果であった。研究代表者も「初代水谷八重子と演劇博物館蔵資料について」として、明治期から連なる新派の動向と初代水谷八重子という女優の芸態について報告した。くわえて「新派と岸田國士」(歌舞伎学会秋季大会、2019年12月15日、法政大学)と題した研究発表を行い、東京や京阪での新派の生成・伝播・展開の動態を、岸田國士という文学者との関わりを通して論じた。上記の成果から、とくに文学と演劇との領域横断的な実践と同時代的な動向を把握することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成31(令和1)年度は、前年度から継続して、明治30年代の京阪における文化人ネットワークと同時代演劇に関する一次資料、同時代紙誌、文献等を中心に調査を進めた。予算支出の面では、東京都内の各機関(国立国会図書館、早稲田大学演劇博物館、東京大学明治新聞雑誌文庫、松竹大谷図書館、国文学研究資料館、日本芸術文化振興会伝統芸能情報館等)の所蔵資料を優先的に調査したため、京都および大阪の公共機関・図書館等での調査は、調査先の都合等もあり、次年度に行うこととなった。東京都内の各機関の所蔵資料は、従来未調査・未整理のものも多く、概ね順調に進展していると考える。 研究実績の概要でも述べたように、明治期の新演劇(新派)の動向について国際学会で発表し、東アジア文化圏に係わるテーマについて、韓国・中国・台湾の研究者と議論できたことはきわめて有意義であった。また、研究代表者が所属する早稲田大学演劇博物館において、 研究実績の概要でも述べたように、明治期の新演劇(新派)の動向について国際学会で発表し、東アジア文化圏に係わるテーマについて、韓国・中国・台湾の研究者と議論できたことはきわめて有意義であった。また、研究代表者が所属する早稲田大学演劇博物館において、二代目水谷八重子、波乃久里子のお二人をお招きした「新派の〈芸〉を語る:初代水谷八重子の記憶とともに」を企画・開催し、具体的な証言を記録できたことは有益であった。研究代表者も研究報告を行い、収蔵資料を通して、明治期から大正・昭和初期への新派における連続性や、人的ネットワークの動態を把握することができた。同様のテーマとして新派と岸田國士に関する学会発表を行った。これらについては、次年度以降に論文化する予定である。 なお、同時代紙誌、文献等の調査を進め、関連記事の抽出・分析も併せて実施し、リスト化を行うことで、今後の研究基盤構築も企図している。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、本研究課題の最終年度にあたるため、前年度までと同様の一次資料や同時代紙誌、文献等の調査を継続するとともに、これまでの調査等の総括を行う予定である。ただし、新型コロナウイルス感染症の流行状況によって、国内各所(とくに京都・大阪)への出張調査が十分に行えない可能性もあるが、状況を注視しながら、可能な範囲で調査を進めていく。その際、東京都内の各機関の未調査・未整理資料を重点的に調査し、前年度までに調査しきれなかった資料を探索することで補完していくことを考えている。 対象として、住友財閥の15代住友吉左衛門(春翠)と11代片岡仁左衛門の関係について調査を進める。これまで、住友春翠の同時代の能楽に対する関心やパトロネージについては研究も行われ、春翠の能衣装収集等の側面からも考証されてきたが、歌舞伎との関わりについては看過されてきたきらいがある。しかし、評伝からは歌舞伎を愛好していた様子がうかがえ、明治30年代における片岡仁左衛門に対する支援への支援が同時代紙に記録されている。評伝の記述検討や、それを裏付ける同時代資料の調査を行い、春翠と仁左衛門の関係を視座に、政財界や花柳界等のパトロネージによる同時代演劇への影響について解明することを目的とする。 その他、前年度までに口頭発表を行ったテーマや調査・分析を進めていた作業について、随時論文化や口頭発表等を行い、公開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に実施予定だった調査を、調査先の都合等により、次年度に行わざるをえなくなったため、該当の旅費を次年度に使用する計画である。
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