研究課題/領域番号 |
18K12237
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
川合 真木子 東京藝術大学, 美術学部, 助手 (20801294)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルテミジア・ジェンティレスキ / ナポリ / 女性画家 / バロック / 西洋美術史 / パオロ・フィノーリア / マッシモ・スタンツィオーネ / ベルナルド・カヴァリーノ |
研究実績の概要 |
2018年度を通じ、ナポリで活動した女性画家アルテミジア・ジェンティレスキと、彼女と相互的影響関係にあった画家たちについての文献の収集、及びその内容の検討を行った。 特に2018年前半は、アルテミジア・ジェンティレスキがナポリ滞在中に書いた書簡の翻訳を行い、所属研究室の紀要に掲載、刊行した。彼女が残した一連の書簡はナポリ時代に関する有益な史料であり、画家の制作態度や交友範囲を知る上で重要である。 また同年9月にはイタリアにおいて現地調査を行った。ナポリの古文書館で史料調査を行った他、プーリア州コンヴェルサーノにおいて同地の絵画コレクションを実見した。コンヴェルサーノは、ジェンティレスキに影響を受けたと見られるナポリ出身の画家、パオロ・フィノーリアが晩年に活動した都市である。調査に際しては、現地に残された多くの作品を実見すると共に、同地の文書館で、今後の調査に対する協力を取り付けることができた。本研究では、ジェンティレスキの作品に対して同時代の他の画家の作品を比較対象とし、様式比較を通して影響関係を分析することを企図している。また併せて同時代史料の検討を行い、影響関係の裏付けをとっていくことを目指しているため、今回の調査は今後の研究の進展に大きく寄与するものと思われる。 帰国後10月には、コンヴェルサーノに残されたフィノーリアの作品に関する調査結果の一部を、早稲田大学で行われた研究会で報告した。多くの有益な意見を得ることができたので、今後の研究に活かしたい。 さらに、コンヴェルサーノにおいて見学した絵画展「アルテミジアと伯爵の画家たち」は、本研究において非常に重要な展覧会だったため、展覧会評を準備中であり、2019年度に刊行する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の実施項目は、おおむね研究計画の内容に沿ったものであったが、当初設定したトピックの順序とは前後した部分があった。例えば、コンヴェルサーノで催された展覧会を見学する都合上、次年度以降に設定していたナポリの周辺地域で活動した画家、フィノーリアに対する調査を前倒しにした点が挙げられる。また、フィノーリアに関する調査を始めて、予想以上に日本国内での資料収集が困難であり、多くの時間を要することが判明した。しかし、この問題については、現地調査に臨んである程度解決済みであり、今後もナポリ、あるいはコンヴェルサーノの研究者と密に連絡を取ることで、乗り越えていくことができると思われる。 なお、最初に着手する予定であったナポリの同時代画家に対する調査、具体的には同地で中心的な役割を演じた画家であるマッシモ・スタンツィオーネに関するものについては、結果をまとめるまでにもう少し時間を必要とする印象である。ジェンティレスキの影響力の地域的な広がりをとらえる事例として有用と思われるフィノーリアの作品の調査と共に、ナポリで影響力を持っていたスタンツィオーネや次世代の画家ベルナルド・カヴァリーノの作品に関する調査を今後遺漏無く遂行していく。
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今後の研究の推進方策 |
今後もおおむね当初計画に沿って研究を進める予定である。本研究では、ナポリの画派の発展に与えたジェンティレスキの作品の影響を、世代的あるいは地域的広がりの中で明らかにすることを目的としている。 2019年度の主要課題は、ジェンティレスキとナポリにおける同時代、あるいは次世代の画家との関係について整理することである。同地の画派に関する基本文献であるベルナルド・デ・ドミニチによる『ナポリ芸術家列伝』(1742-1745 年)を精読し、関連箇所の翻訳を進めると共に、画家相互の影響関係を現存作品からも探っていく。 計画を進めるにあたっての問題点は、文献上に見られる画家同士の交流を、現存する作品からいかに裏付けるかということである。現存作品は必ずしも文献上の記述と一致しない場合も多く、この点については、先行するコレクション研究の成果などを参照しながら、作品の来歴を1点ずつ精査しつつ慎重に検討していきたい。 また、これと並行して、一次史料の調査も続ける予定であり、今年度もナポリの古文書館における現地調査を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費を予想より安く抑えることができたため。次年度の物品購入に充てる。
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