2022年度を通じ、17世紀のナポリで活躍した女性画家、アルテミジア・ジェンティレスキのナポリにおける活動について、研究成果のまとめを行った。学位論文をまとめた著書『アルテミジア・ジェンティレスキ:女性画家の生きたナポリ』(晃洋書房、2023年2月)を刊行し、2021年度までにこの科研費を利用して行った研究成果をその中に収録した。 ナポリ絵画全般に関する研究実践としては、引き続き、ベルナルド・デ・ドミニチの『ナポリ芸術家伝』の翻訳を行い、知られざる女性画家ルイーザ・カポマッツァの伝記の邦訳を刊行した。これは、17世紀の女性画家の状況を多角的に考える上で、本研究の今後の展開にかかわるものである。この成果については、所属大学のリポジトリで公開している。 なお、本年は、研究計画の最終年度でもあることから、新型コロナ感染症のため延期されていたイタリアにおける現地調査を敢行した。ナポリで開催されたアルテミジア・ジェンティレスキの展覧会を見学して作品調査を行い、アルテミジアと同時代の画家の作品との造形上の相互的影響関係を考察すると共に、イタリアの研究者へ向け、2月に刊行した著書の研究内容の周知などを行いつつ、この5年間の研究を総括することができた。 研究期間全体としては、新型コロナ感染症による作品調査の一時中断の影響もあり、ナポリの同時代画家とアルテミジアの作品との造形的な関係を詳細に実証するには至らなかったが、この期間を通してアルテミジアの書簡や、ナポリの画家の伝記の翻訳を進めたことにより、アルテミジアのナポリでの活動を史料的な側面から裏付けると共に、後世における彼女の評判と影響力ついて補足することができた。プーリアのアクアヴィーヴァ・コレクション旧蔵作品についての調査では、この画家の後期作品について新たな見解を述べると共に、同時代的なアルテミジアの評価についても知見を加えた。
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