研究課題/領域番号 |
18K12239
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
安藤 さやか 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 研究員 (90807504)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カロリング朝 / 物語イニシアル / 彩飾写本 / 写本画 / ヨーロッパ初期中世 |
研究実績の概要 |
2020年度には、対象作例に関する基礎資料作成を継続しつつ、個別研究を行った。基礎資料作成に関しては、ドイツ・フランス・スイス・イギリスの国立図書館等の大規模機関所蔵の作例についての情報を、前年度までに概ね纏め終えていた。従って、本年度は市立図書館や修道院図書館等の中小規模機関所蔵の作例を中心に、先行研究による記述および購入した図版の観察から、写本学的記述を行った。研究対象となる作例のリストアップと一覧化は完成に近づいているものの、COVID-19の影響により欧州に渡航しての原資料調査が出来なかった為、写本学的観察や線描の状態等の実見が不可欠な未記述箇所が残る。 個別研究に関しては、2点の作例に焦点を合わせて分析を試みた。まず、《トマス福音書》(トリーア、大聖堂宝物庫、Cod. 61)については、当該写本は本研究課題で扱う「物語イニシアル」の初期の重要な作例であるにも関わらず先行研究が少なく、図像源泉や様式分析、制作背景についての研究が不足している為、先行研究の精査と挿絵・装飾の詳細な記述を行なった。但し、先述の理由で実見調査が不可能だった為、彩飾に使われている色彩や写字生・写本画家の手の区別、折帳等に関する詳細な観察および記述には不足箇所を残している。次に、《聖ルペルトゥスの詩編》(ザルツブルク、ザンクト・ペーター修道院図書館、Cod. a I O)についての個別研究を行なった。本写本に関しては、所蔵機関がデジタル化を行なっていないものの、当該写本のファクシミリが刊行されている為、これに基づいて観察することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19流行の長期化の為に渡航できず、2020年9月および2021年2月に行う予定であった、ドイツ・フランス・スイスの図書館・文書館・博物館での実見調査ができなかった為である。欧州在住の専門家とは定期的に連絡をとり意見交換の機会を設けているものの、原資料を前にして議論することが出来なかった。 更には、日本国内の研究機関の利用に際しても、COVID-19の影響で障害があった。2020年度前期は各大学図書館の利用制限の為ILLの利用が難しかった他、年度を通して、大学図書館等の研究機関の入館に制限がある状態が続いていた。多くの大学図書館では、所属教員や学生以外の利用を一時的に停止していた為、所属機関以外の機関に出向いて資料収集を行うことが不可能であった。これらの障害の一部は電子ジャーナルの購入によって代替したが、貴重資料を含め、全ての文献・研究資料が電子化されているわけではない。これらの理由により、調査に遅延と障害が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に実行出来なかった実見調査は、2021年夏以降に行う。但し、日本から欧州への渡航困難、或いは受け入れ機関の都合により調査困難な状況が続くことが十二分に想定される。この場合、原資料を観察した上での詳細分析は断念せざるをえない。実見調査の代替案として、特殊撮影(紫外線・赤外線等)依頼による資料調査を行う予定である。 幸い、国内外でオンライン学会・研究会等が普及している。こうしたオンライン学会などで研究成果を報告し、内容の充実を図った上で論文化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末より2020年度までの間に、トリーア、ミュンヘン、アーヘン、、ザンクト・ガレン、パリでの写本調査が、COVID-19の流行長期化による渡航困難で延期となったことによる。更に、欧州研究機関でも一時的に閉鎖期間があった為、資料の新規撮影依頼等が滞ったことによる。渡航しての実見調査は2021年夏以降に延期する。但し、渡航困難な状況が続くことが想定される為、その場合は資料購入費、および外国語論文執筆の際の校正・校閲費に充てる予定である。
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