研究課題/領域番号 |
18K12241
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
百合草 真理子 名古屋大学, 人文学研究科, 特任助教 (80813188)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イタリア・ルネサンス / 宗教改革 / 改革派修道会 / ベネディクト会系カッシーノ会 / ピアチェンツァ / サン・シスト聖堂 / ベルナルディーノ・ザッケッティ / ラファエッロ・サンツィオ |
研究実績の概要 |
近代への転換期とされる16世紀初頭のキリスト教美術に関しては、近年、その宗教的/芸術的価値をめぐって議論が行われる。こうした背景のもと本研究では、ベネディクト会系改革派カッシーノ修道会による15世紀末から16世紀前半にかけての聖堂装飾について、個別の作品に基づきながら、その様態、効果、展開と彼らの改革精神・思想的独自性との関わりを検討する。事例研究を重ねることで、歴史的位置づけが曖昧なこの時期の宗教美術が担っていた機能を、カッシーノ会という一つの視点から照らし出すことを目的とする。 本年度はまず、同会に所属する北イタリア、ピアチェンツァのサン・シスト修道院聖堂を対象として、当地域出身の画家ベルナルディーノ・ザッケッティによる壁面・天井装飾(c.1517)の調査及び、それに基づく図像解釈を行った。この一連の装飾に関しては先行研究が乏しく、詳細な研究は未だ行われていない状況にある。そこで、現地で東西の交差廊と身廊に描かれたフレスコ画及び銘文を細部に至るまで撮影し、これらをキリスト教図像の伝統及び聖書と照らし合わせることで、西交差廊の壁画・天井画がパウロ書簡『ヘブライ人の手紙』第9章に基づくことを特定し、装飾全体を貫く図像プログラムのテーマが、「キリストの贖罪」に置かれた可能性を検討した。この仮説のもと、1514年に本聖堂の主祭壇に設置されたと推定されるラファエッロの祭壇画《サン・シストの聖母》(c.1512-13)との関係を考察し、いかに本祭壇画が上述のサン・シスト聖堂の図像プログラムに組み込まれ、このプログラムに従った意味と機能を発揮したかという観点から、本作に関する新たな作品解釈を提案すると同時に、聖堂の内部空間において美術作品が果たした役割を提示した。本研究成果は、美術史学会全国大会(2018.5)にて発表するとともに、同学会誌『美術史』(2019.10)に公開予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サン・シスト聖堂の壁面装飾の調査により、当初は想定していなかったラファエッロの祭壇画との結びつきが浮かび上がり、日本の学会において研究経過を報告することができた。他方、本年度の研究計画の中で予定していた中部・北イタリア地方におけるカッシーノ会系の各修道院建築の現地調査については一部、果たすことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、中部及び北イタリアを中心とした一連のカッシーノ会の修道院建築の調査を実施する。特に、北イタリアのケースとの比較の題材として、フィレンツェのバディア修道院を対象として集中した調査を行い、バディア修道院とトスカーナ地方の芸術家との関わりを考察する予定である。 並行して、これまでの現地調査を通じて収集したカッシーノ会の各修道院装飾の調書を作成し、時期と地域による変遷を言語化するとともに、これを、同会の宗教的コンテクストから生まれた著作『キリストの恩恵』(1543)などを参照しながら、カッシーノ会の思想・神学の変遷との照合を試みる。
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