研究実績の概要 |
本年度の研究では、特に仏領レユニオン島に着目し、東西交易の寄港地として発展した同地の文化を、奴隷制度を基盤とする植民地主義の歴史を踏まえながら、フランス本土における美術アカデミーの古典的絵画技法がどのようにヨーロッパの外部に移植されたのか、同地で生まれた作品が本土の人々にどのように受け止められたのかを、レオン・ディエルクス美術館が所蔵する、アントワーヌ・ルイ・ルサン(Antoine Louis Roussin,1819-1894)やアドルフ・ルロワ(Adolphe Le Roy, 1832-1892)らの作品の分析によって明らかにすることを試みた。 アントワーヌ・ルイ・ルサンは、アヴィニョンの生まれで1842年に兵役のためにレユニオン島にたどり着き、クレオールの女性と結婚し、同地で生涯を過ごした写真家・版画家・画家である。美術教師として高校で教鞭を執りながら島に印刷所を構え、島の風景や生活を情趣豊かに描いた版画集『ブルボン島の想い出』および『レユニオンのアルバム』を発表した。また、アドルフ・ルロワは、レユニオン島サン・ドニの株式仲買人の子として生まれ、独学で絵画を学び、島の雄大な自然の風景をロマン主義的に描いた。ルロワの作品は1878年の第3回パリ万国博覧会などに出品され、大きな成功を収めた。今後は、彼らの作品がどのような評価を受け、フランス国内外においてどのように受容されたのかを、資料等の分析から明らかにしたい。
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