研究課題
西洋近世美術において「アジア」はどのように表象されてきたのか。本研究では、16世紀から18世紀のヨーロッパで数多く制作された四大陸図(ヨーロッパ・アジア・アフリカ・アメリカ)のアジアの寓意表現の収集・分析を通じて、考察してきた。四大陸図の「アジア」は大きく2つの系統、すなわち、オランダなどの作例(連作版画が多い)と、イタリアや南ドイツなどカトリック圏の作例(フレスコ画など室内装飾が多い)に分類することができる。いずれにおいてもアジアの寓意像は、リーパ『イコノロギア』(初版1593年、1603年)にあるように、香炉やラクダと共に描かれるのが定型となっていた。しかし、オランダの作例では、インドや中国、日本など東南アジアないし東アジアの人物や文物が描かれることが少なくないのに対し、イタリアや南ドイツなどの作例では、オスマン帝国など中近東のイメージが登場する傾向が見られた。これらの結果を具体的な美術作品に即して検討するため、ティエポロ《アポロと四大陸》(ドイツ・ヴュルツブルク司教宮殿(レジデンツ)階段室天井画、1752-53年)を取り上げた。本作品のアジアの場面には、ラクダではなく象が登場する。先行研究ではヨーロッパ人によるアジア旅行記からの影響が指摘されている。しかし、ティエポロが描いたのは、耳の小さなインド象ではなく、縦長の大きな耳を持つアフリカ象であり、旅行記とは異なる図像源があったと考えられる。画家が参照したのはマンテーニャ《カエサルの凱旋》などに描かれた古代ローマの敵軍の象であり、これらの象にはオスマン帝国ないし東方世界が重ねられている。ティエポロの象もこうしたイコノグラフィーの系譜に位置づけることができるのである。この研究成果について、査読付き論文「ティエポロ《アポロと四大陸》(ヴュルツブルク)の象について」『デ アルテ』九州藝術学会、第39号)として発表した。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
『デ アルテ』(九州藝術学会)
巻: 第39号 ページ: -
Wolfgang Schmale (Projektleitung): Erdteilallegorien im Barockzeitalter, Wien
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