最終年度は、東京国立博物館の所蔵品を中心に文人画や風景表現が見られる作品調査を行い、その成果の一端として、テーマ展示を行った【本館7室・8室「日本の文人画~中国へのあこがれ~」(会期:2023年5月30日~年7月17日)】。さらに、特別展「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」に合わせ近世やまと絵を紹介する特集陳列を行い、やまと絵における風景表現についても考察を深めるとともに関連書籍も刊行した。【本館7室・8室・特別2室「特集陳列 近世のやまと絵―王朝美の伝統と継承―」(会期:2023年9月5日~12月3日)/東京国立博物館編『東京国立博物館所蔵 近世やまと絵50選』吉川弘文館、2023年】また、備前(岡山)出身の文人画家である浦上玉堂の初期作例「山水図扇面」(個人蔵)を取り上げ、玉堂の実景に対する向き合い方や、固有の場所を描く際の中国絵画・版本からの型の影響についても考察した。 研究期間全体としては、期間中にコロナ感染症が流行したことにより、作品調査の中止や延期を余儀なくされたことも多々あった。しかしその分、調査済の作品情報の整理や、海外に所蔵されている関連作品の写真を取り寄せての題跋や箱書の読み解きに時間をかけるなど、柔軟な対応により視野が広がり、新たな風景表現研究の切り口を発見し得たといえる。また、文人画のみならず、狩野派や円山四条派、やまと絵、浮世絵、着物等、幅広い分野の風景表現について考察を深め、研究論文、国内外での招待発表、オンラインギャラリートーク、展示等でその成果を発表することができた。特に代表者の所属する東京国立博物館にて、文人画や風景表現の見られる作品を紹介するテーマ展示を毎年欠かさず開催したことは、研究成果を研究者のみならず広くわかりやすく公開したいという目標達成にも叶うことであったと考える。
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