本研究課題の目的は、おもに鎌倉時代から南北朝時代の絵画作品の調査および関連文献の読解により、この時期に絵画制作工房が複数並立する状況を整理し、そのうえで各々の絵所に所属する絵師たちの相互交流の具体相を明らかにすることである。 令和5年度(2023年度)は、研究代表者が担当する特別展「あこがれの祥啓―啓書記の幻影と実像―」の準備過程で神奈川県内の寺院から見いだした真康筆「四仏図」を同展覧会で展示公開した。本作が室町時代前期に鎌倉で活動した画僧仲安真康の作であることを落款の内容と絵の表現内容から確認し、図像の共有という点において、仲安真康が南北朝時代以前の京都画壇との連続性を有するという意見を提示した。 本研究課題の研究期間全体について特筆すべきことは、研究代表者が担当した特別展「重要文化財修理完成記念 十王図」の開催にあたり多数の十王図を熟覧調査する機会を得たことである。南宋から元時代に制作された神奈川県立歴史博物館本十王図をはじめとして、これと同系統の図像を示す複数件の十王図を集中して実見することができた。具体的には、総世寺本(中国明時代、14世紀)、根津美術館本(室町時代、15世紀)、西教寺本(高麗~朝鮮時代、14~15世紀)、建長寺本(室町時代、15~16世紀)、能永寺本(室町時代、16世紀)、神照寺本(室町時代および江戸時代、15世紀および17世紀)、大倉集古館本(江戸時代、17世紀)などである。このうちいくつかの作例については高倍率のマイクロ撮影を実施し、顔料の粒子など肉眼では通常観察できない細部の状況を確認するとともに、絵画研究におけるマイクロ撮影の有効性を実感したことで、今後の研究課題への着想を得た。
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