最終年度として、これまで川喜多記念映画文化財団、松竹大谷図書館、小津安二郎青春館などで調査を進めてきた小津安二郎直筆資料群の情報を整理した。台本やノートには映画の成立過程を、書簡には小津の考察や関心を窺える記録がある。複数の修正入台本を検討できる『早春』(1956年)では、小津による加筆修正と、他の『早春』台本上の加筆修正との関係を推定でき、小津が制作時に生じた台詞の変更にどのように対応したのかをみてとれる。 これら一次資料を継承してゆく方法も検討し、実践した。具体的には、2021年2月、3月に長野県の新・雲呼荘 野田高梧記念 蓼科シナリオ研究所の協力のもと、同研究所ウェブサイトに「『麥秋』執筆日記」「『東京物語』執筆日記」を掲載した(解説:渡辺千明)。いずれも、小津と脚本を執筆していた脚本家野田高梧の手帳の翻刻であり、同研究所との研究成果のひとつである。著作権、所蔵先などとの連携も必要であるため、小津の場合は2021年時点で同様の公開を行うまでには至っていない。この点についてはどのように公開を進めるかも含め、関係者と引き続き検討し、実現につなげたい。 以上の成果は論文、口頭発表、さらに一般を対象としたトークイベント、シンポジウムにおいて報告した。2020年9月には、NHK『歴史秘話ヒストリア』小津安二郎特集に関わり一部出演した中で、小津を一般にどのように伝えるかの知見も得た。研究実施にあたり、関係者より継続的な協力、教示を得られていることに感謝したい。
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