研究課題/領域番号 |
18K12262
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
山本 里花 (生野里花) お茶の水女子大学, 基幹研究院, 基幹研究院研究員 (00793960)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 音楽療法 / 認知症高齢者居住施設 / 関係の媒体としての音楽 / ケア / 共創 |
研究実績の概要 |
「関係の媒体としての音楽実践の中から生み出される高齢者『ケア』という新たな研究指標を提示すること」という研究目的のもと、【実践】【検証】【共有】の以下の実績を得た。
【実践】A介護付き老人ホームにて、①個人54回、②クローズド小集団19回、③オープン構造47回の音楽療法実践と詳細な記録を行なった(コロナ感染予防のため、3月は中止)。 【検証】a「終末期の高齢者と家族、セラピスト間の音楽を媒体とした交わり-エスノグラフィーを参考にした質的事例研究試論」、b「有料老人ホームの日常から終末期までの生活に、音楽療法をどう活かすか-『関係の媒体』という音楽への視点を用いた個人事例」、c「介護つき高齢者ホームにおける音楽療法『街角の音楽家』-その共創の様相-」、d「音楽療法は要介護高齢者の居住施設で何ができるか-『わたしらしく生きる時空間』を支える音楽療法の柔軟な展開」をまとめた。 【共有】第20回日本認知症ケア学会大会において検証d、野花音楽臨床研究対話会例会・第19回日本音楽療法学会大会において検証a、野花音楽臨床研究対話会例会・共創学会第3回年次大会において検証cの口演発表を行った。第19回日本音楽療法学会大会における自主シンポジウム「臨床と研究をつなぐ-その希望・葛藤・前進」主宰、同じく「日本の文化土壌と音楽療法を考える-伝統・歴史・現場の対話から-」のシンポジスト発表「『その人のための音楽』「その人と共に行う音楽」『その人と共に住まう音楽』」、日本音楽療法学会関東支部第8回都県別講習会における「現象学のまなざしと音楽療法実践」の導入講義、第19回日本音楽療法学会東北支部学術大会における「『関係の媒体としての音楽』に視点をおいた音楽療法の展開ー”高齢者の終の住処“での音楽の役割を考える」教育講演を行なった。東北音楽療法推進プロジェクトえころん随行見学と討論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の研究活動の成果と進捗状況は以下である。
【実践】2月までの実践で、オープン構造の実践は、対象者双方から発せられる密な関わりのサインが絡み合うなど、質・量ともに深化した。施設スタッフの受容と要請も増加しているため複雑化もしている。また、個人構造は、あらかじめ予定された対象者への規則的な実践に加え、個々の様態変化に合わせてより即時的に対応できるオープン的な構造も一部導入した。一方、クローズドグループを行なっていたフロアは12月いっぱいでオープン構造へと移行した。 【検証】前述aでは、音楽を媒体として音楽療法士・対象者・同席家族間に起きた関係の変化を検証し、生と死の意味を非言語的に交流した事象が浮かび上がった。bでは、二者関係に閉じられ定式化へ向かったケースと、オープンかつ即時的な展開を余儀なくされたケースとを並列させ、その成果と意味の共通点や違いが明らかにされた。cでは、オープン構造の音楽療法時空間における参加者それぞれの貢献や相互関係の変化を細かく検証し、「共創」の事象の内容を例証した。dでは、この施設における3年間の音楽療法形態の変化とその意味を検証した。 一方、本研究では介護記録と音楽療法記録の同時期の並列分析を予定し、施設管理職に閲覧を申請していたが、最終段階において、音楽療法士による個人介護記録の直接閲覧はできないとの通達があったため、予定通り進行していない部分がある。 【共有】前述したように、これら検証してきた論説の学会・研究会・講習会における発表や、学会誌への投稿(査読中)を通じ、研究への新しい視点を得るとともに、本研究が目指す「新たな研究指標」を共有した。さらに、こうした公開に向けた施設内での承認プロセスで、他職種とのコミュニケーション経路ができ、この先さらに深い共有をするための下地となった。また、オンラインによる研究者の個人発信サイトを整え、開始した。
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今後の研究の推進方策 |
以下を予定しているが、コロナ感染自粛要請のため未知数の部分も多い。
【実践】2020年6月現在、施設を訪問しての実践はできていない。この間、担当介護福祉士との綿密な連絡のもと3回作成した録音音楽を日常の介護場面で利用してもらい、様子を記録している。今後訪問が再開しても、安全性を担保するために形態の変更を余儀なくされると思われるが、それも実践のひとつのリソースとして組み込み、発展を模索する。 【検証】前述のとおり、介護記録は担当介護福祉士を通した間接的情報の参照のみが可能になったので、この介護福祉士の時間的余裕を考慮しながらケースを厳選して試みる。また新しい視点として、参加者に経験されている音楽療法時空間の内側の密度や情報の行き交いが、外側にいる関連職や家族からどのように体験されているのか、その内と外のズレの様相を捉えることによって、起きていることの存在や意味を探る方法を模索する。 【共有】メルボルン大学のMcFerran教授、国立音楽大学の三宅博子准教授とともに、日本音楽療法学会第20回大会における、ラウンドテーブル「音楽療法臨床の研究:内側へ深く知り、外側へ豊かにつなげるための可能性をさぐる」の準備を進めてきたが、学会の実施形態変更のため、現段階では実現可能性が不透明である。なお同学会講習会では、録画による講義「臨床を深める研究とは」を行う可能性がある。その他、各学会の実施状況を見ながら、共有の機会を捉えていく。一方、主宰する研究会「野花の座」、「野花音楽臨床研究対話会」では、オンラインを最大限に駆使して共有や対話の機会を創成する。また、今年度より新たに始めた対話サイト「音楽療法士の聞き耳頭巾」においても、テーマを特定して対話を積み重ねていく。2019年に口頭発表した研究の、論文化と投稿を行う。またこれらを材料に、施設内関連職、施設外専門職との対話を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度海外出張を予定していたが実施できなかったため、予算に差額が生じた。2020年度は、コロナ感染予防のため、海外出張・国内出張ともにさらに減少する可能性が高い。また、海外講師の招聘旅費と謝金の支出を予定していたが、ここにも大きく変更が出る可能性が高い。よって、旅費・謝金の使用は現段階では不透明である。テレワークの増大に備え、コンピューター機器やアプリケーションの導入、オンラインによる研究補助への謝金などに支出する予定である。 ここまで研究はやや遅れ気味に推移してきたが、最終年度にあたってさらに大きく環境が変化したため、研究計画を若干見直し、2021年度への研究機関の延長も視野に検討していきたい。
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