研究実績の概要 |
延長申請にも記した通り、校務等の負担により昨年度からの体調不良が回復せず、長時間の渡航と一定の滞在期間を必要とする国外調査へ赴くことかできないでいる。 19年度はそれゆえ、哲学的文献の読解と国内の関係事例考察を中心に「共同体形成に与する身体感覚の研究」の根拠・原理を追究するよう努めた。 要所は、ジル・ドゥルーズが『フランシス・ベーコン 感覚の論理学』の中で、モーリス・メルロ=ポンティやアンリ・マルディネの著作を参照しながら「感応的契機」が美学の基礎になることを私たちに伝えている点にある(cf. Francis Bacon Logique de la sensation, p. 39-40)。研究代表者はこれを具体的に深めるにあたり、知悉の舞踊家の仕事を考察した。例えばジャワ古典舞踊を身につけ、コンテンポラリーダンスの文脈でも活動する佐久間新は「周りの人がチューニングを合わせたくなるような、微弱な電波というか、共鳴を生む筒のようなものをつくるようになってきました」と言う(cf.『ソーシャルアート 障害のある人とアートで社会を変える』, p.123)。この話は、先のドゥルーズの考えとも響きあい、私たちを、舞踊美学者ミッシェル・ベルナールのキアスム解釈へと向かわせる。ベルナールは、後期メルロ=ポンティの思想に見られる「キアスム(交差配列:chiasme)」を独自に整理しつつ、感じながら表現する(「パラサンソリエール」と形容され得るキアスムの)その底に「メタ・キアスム」を思惟する。付言すれば、目に見える運動に先立って動きの質を潜在的に構成する「想像的な運動圏」を考えるわけであるが(cf. De la creation choregraphique, p.117-120)、この理論は本研究課題の原理的追究にとってとても有用なものである。 以上の研究成果は第71回舞踊学会大会で発表した。
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