研究課題/領域番号 |
18K12276
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
川端 美季 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (00624868)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 公衆浴場 / 近代日本 / 植民地 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近代日本の植民地である東アジアにおいて公衆浴場と清潔規範が強制され強化されていった過程を、当時の公衆衛生政策の展開を通して検討することである。 本年度は基盤となる近代日本国家の清潔観、衛生観に関する言説と近代日本植民地における公衆衛生政策に関する資料収集を進めた。具体的には以下のとおりである。 (1)近代日本の清潔規範が「日本人」の国民性と結びついていく過程、そしてその清潔規範が広く受容されていく過程を、倫理学者や国文学者が論じた国民道徳論を中心に分析した。国民道徳論の背景には、欧米や東アジアの各国との関係や比較があることが明らかになった。(2)国民道徳論のなかで扱われていた東アジア圏に対する視点について検討した。日本の都市政策においては、労働者や貧民の生活を「汚れている」と見なし、衛生的だけではなく精神的かつ道徳的にも清潔さを強いる「汚れた」民衆を清潔にするまなざしであったが、国民道徳論によって日本の国民性と結びつくことで、国外では異なる視線が働くことにつながっていったことが示唆された。(3)日本植民地下の公衆衛生政策について、国内外の図書館、資料館を中心に資料収集を行った。ここでは行政資料からのみでは明らかにならない公衆浴場の位置づけや、どのような認識をもたれていたのかを検討するために、新聞や雑誌などの資料を収集し分析した。 これらの成果として、日本生命倫理学会、日本医学哲学倫理学会、国際学会であるThe Asian Society of the History of MedicineとHistory of Medicine in Southeast Asiaの合同大会で報告し、また『医学史研究』に論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
資料の収集と整理を進めているものの、近代日本の清潔規範と国民性とのかかわりを検討するなかで、新たな課題が生じ、想定よりもまとめに時間がかかっている。たとえば、国民性の言説と清潔規範の構築が関連していくことでが新たな「日本人的」規範を生み、戦時体制への萌芽がみられるといった点などである。
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今後の研究の推進方策 |
やや遅れているとはいえ、すでに近代日本植民地下の公衆浴場に関する資料収集は始めている。引き続き資料収集を進めるとともに、資料分析を行い、成果を適宜公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内外で資料収集を行ったものの、本年度は国内が中心となった。ただしこれは国内での基礎的調査が進んだということでもあり、次年度以降に国外調査の機会を発展させて持つ予定である。またすでに渉猟した資料整理に必要となる物品も研究の進捗状況にあわせて購入予定である。
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