本研究は、日本の近世における中国医学の受容と展開をみるものである。とりわけ、診察・診断・治療に関する医学理論や具体的な疾患といった臨床的な視点に立って、日・中比較、新・旧比較検討をして伝統的な東洋医学にアプローチしている。 西洋医学・東洋医学双方に立脚している現代の東洋医学の臨床・教育を研究へ反映し、また研究を臨床・教育、ひいては社会へ還元することを目指している。 単著「曲直瀬道三の察証弁治と中国医学の受容――頭痛を中心に」(『関西大学東西学術研究所紀要』51、2018年、オープンアクセス)などにて、中国医学から受容・展開されてきた近世日本の診察・診断・治療法などを検討してきており、2018年度は現在と近世の東洋医学書の比較検討をするにあたって、基盤作りとして近世の医書を探るなどの計画を立て、進めてきた。 それを受けて2019年度は、江戸期の著明な医者の著作において、ストレス社会の現在に多い「情志の失調」について述べられている臨床的な箇所に着目し考察した。新・旧(現代・近世)比較をするうえで、まず現在の東洋医学理論における「情志の失調」関連事項を再確認・整理し、そして江戸期の岡本一抱の考えや治療を中心に要点を探った。成果として、「岡本一抱『医学三蔵弁解』における情志――現代中医学と比較して」(井上克人編著『東アジア圏における文化交渉の軌跡と展望』関西大学、2020年2月)を分担執筆した。同書は入手し易い形で一般に流通している。 2020・2021年度は、東洋医学の診察法の一種である脈診に着目し、現在の日本における教育・臨床および中医学の内容もふまえながら、近世日本の高名な医師であった曲直瀬道三の流派における脈診の一部を取りあげて検討した。その成果は、京都大学「東アジア伝統医療文化の多角的研究」研究斑の成果論文集に投稿済みである。
|