研究課題/領域番号 |
18K12280
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
逆井 聡人 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (50792404)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 在日朝鮮人文学 / 占領期 / 朝鮮戦争 / 冷戦 / 戦後詩 / 検閲 |
研究実績の概要 |
2019年度は、在日朝鮮人作家による文学作品の読解を中心に行い、その成果を国外に発表した。本年度における特に顕著な成果としては、中長期的な国際研究ネットワークを構築できたことである。国際研究ネットワークの構築は申請時の計画でも中核的目標と掲げていたため、本年度でこの目標を達成できたことは、本研究の完遂に向けての大きな前進であると言える。 まず、カリフォルニアを中心としたアメリカ西海岸の日本学研究者のネットワークであるTrans-Pacific Workshopのメンバーとなり、2019年6月にUCLAで開催された国際会議のスピンオフ企画として拙著『〈焼跡〉の戦後空間論』(青弓社、2018年)の書評会が開かれた。この書評会では、自著を紹介する機会を得たとともに、西海岸の若手日本研究者や大学院生たちと議論することができた。ハワイ大学マノア校では、Center for Japanese Studiesを拠点としたEmpire Studies Initiativeに外部協力者として加わることになり、中長期的な協力関係を築くことができた。また北米の若手研究者グループのZainichi ConsortiumのBoard Memberとして2018年度から活動している。国内でも、大阪大学「越境文化研究イニシアティブ」に協力者として加わり、2020年度も継続して関わることになった。こうした国内外の国際ネットワークを利用して、研究の成果を発表することができ、また今後中長期的な共同研究を計画することが可能となる場を得ることができた。 今年度の成果としても本研究にかかわる研究論文を4本発表、国内外の学術会議での発表が3回と2020年2月以降にコロナウィルスによって中止になったイベントを除いても例年よりも精力的に研究活動を行ったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は計画通り、在日朝鮮人文学者、特に金達寿や許南麒に関する調査及び作品の分析を行い、論文として、あるいは学会や国際会議において、成果を発表した。 金達寿に関しては、論文「在日朝鮮人文学と自己検閲―GHQ検閲と在日朝鮮人コミュニティーの狭間にいる「編集者・金達寿」の葛藤を考える」で議論した。GHQ検閲下での、金達寿自身の「自己検閲」行為に関して、従来の検閲研究で踏襲されてきた「抑圧者(アメリカ)/被害者(日本)」という二項対立図式を崩した上で、どのように位置づけることができるかを考察した。許南麒に関しては、田口麻奈氏との共著の論文「IOM同盟を中心とする街頭ハガキ展、詩歌原稿展および姫路原爆展をめぐる資料の整理と検証」の中で、1950年代初頭の日本詩壇における許南麒の位置を、新資料とつき合せることで検討した。「考現学と帝国主義ーー今和次郎の視線について」では、冷戦期ではなく関東大震災前後の1920年代における今和次郎の朝鮮観を論じた。冷戦期の日本の知識人の朝鮮半島認識と比較することを目的としてこの論考に取り組んだ。 口頭発表では、ハワイ大学にて'Forming Political Identity of the Resident Koreans in Japan; Representations of Legal Status in Zainichi Korean Literature in 1950s'という題で、在日朝鮮人が朝鮮戦争前後においてどのような法的立場に置かれたかについて論じた。また東京大学アメリカ太平洋地域研究センターにて開催された安岡章太郎の渡米経験に関する研究会でコメンテーターを務め、冷戦期における環太平洋の知識人の移動というテーマに関してより理解を深めた。
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今後の研究の推進方策 |
3年目の目標であった国際シンポジウムの開催ということに関して、現段階では2021年の3月にハワイ大学にてEmpire Studies Initiativeと協力しながら「冷戦期日本と東アジアにおける移動」というテーマを含めたイベントを計画している。また現在このシンポジウムでの成果を日本語と英語の両方で論文化し、学術雑誌上で、あるいは論集の中で出版する道を模索している。 本研究の集大成として、これまで築いた国内外のネットワークを活用し、国内外の研究者とオンライン/オフライン両方でのコミュニケーションを緊密に取りながら、イベントと出版の両方を進めていきたい。 また、本研究では主に1950年代前半に照準を当てていたが、今後この冷戦期の文学者の移動の議論を発展させていくには帝国期まで遡って視野に入れなければならないということがより明確に見えてきた。今後の研究につなげるためにも、次年度は本研究の裾野を広げることに注力したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の流行により、2020年3月26-30日に予定していたアメリカ・ソルトレイクシティ(ユタ大学)への出張が中止になったために次年度繰り越し分が発生した。繰り越し分は2020年度に、自宅作業用のノートパソコンと、オンライン会議用の物品費として使用することを計画している。
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