2023年度は、これまでに収集した「内部発行」資料のデータ化および新たな研究手法の発見に重心を置いた。 本課題を遂行する際には、外国映画の「内部上映」も書物と同じく新中国に大きな影響を及んでおり、今後新たな調査と比較が必要であることがわかった。また、三島由紀夫や松本清張の作品と同時期に「内部発行」となったアメリカやソ連の文学作品も、日本文学と比較する対象として研究することに値する。 さらに、2022年度以来にはデジタル・ヒューマニティの理論を参考にし、デジタルツールを用いて文学研究を行う可能性を模索してきた。2023年度は昨年と同じく、Pythonを用いて口コミサイトやSNS上にある不特定多数のデータを効率的に収集し、データのクリーニングを行ってきた。同時に、word2vecを利用し、日本語テキストと中国語訳のテキストに関する機械学習を行う方法を検証した。しかし、機械学習で著しい分析結果を示すためには、現段階のデータ量が十分でないことが明らかになった。そのため、中国語に訳された日本文学のテキストをできる限りデジタル化し、DHの研究で有効的に利用できるように整備していくことが今後の目標である。 2023年度は、勤務先の学部が改組することとなり、改組に関連する業務を多く担当するために、やむを得ず研究課題のエフォートを下げることとなった。また、国際学会での研究発表や、中国、台湾などアジア各地域での研究調査も実現できなかった。遠距離の移動ができない中、デジタル・ヒューマニティの手法を試み、現存するデータを活用できる方法を模索してきたが、理論と経験が乏しいため、まだ試行錯誤を繰り返す状況にあり、著しい研究結果を見出すことができていない。しかし、DH研究は今後人文学研究の重要な一分野になることを予想しているため、今後もさまざまなツールを取り入れ、研究方法を探っていきたいと考えている。
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