研究課題/領域番号 |
18K12289
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
久保 堅一 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (30624085)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 『竹取物語』 / 注釈 / 漢籍 / 漢訳仏典 / 後世における『竹取物語』享受 |
研究実績の概要 |
本年度は、主に物語前半の内容を対象として、『竹取物語』の細部の語句や表現について新たに注を施すべく研究をおこなった。漢籍や漢訳仏典、その関連資料を収集しながら、語や表現、モチーフ等の従来の注釈を点検し、新たに典拠や背景を探ることにつとめた。また、あわせて後世の諸作品における『竹取物語』享受についても調査し、『竹取物語』注釈の最新化を図った。 具体的な成果としては、まず、大伴大納言の求婚譚において最後に登場する「鳶・烏」についてその背景や効果を考察し、論文「トビとカラス―『竹取物語』大納言求婚譚の一背景―」として発表した。これまでの注釈ではほとんど言及されてこなかった「鳶・烏」であるが、この組み合わせの背景に漢籍の表現世界が広がっていることや、両鳥の登場が大納言求婚譚のオチとなっている効果について明らかにし、注釈の充実に寄与した。 また他の成果として、後世の歴史物語『栄花物語』における『竹取物語』受容について考察し、論文「二人のかぐや姫―『栄花物語』巻第六「かかやく藤壺」の彰子と定子―」として発表した。これは『栄花物語』巻第六に描かれる一条天皇のキサキ、彰子と定子の姿にかぐや姫が受容されていることを論じた研究だが、重視したい知見として、一条天皇の「七十の翁」という発話に、竹取の翁の「年七十にあまりぬ」という自身の年齢をいう発話が受容されたていたことが挙げられる。竹取の翁の年齢は、物語後半では「五十ばかり」とも記されており、はやくから「七十にあまりぬ」との矛盾が指摘されてきた。本研究によってその矛盾が解消されるわけではないが、少なくとも『栄花物語』(正篇)が執筆されたと目される11世紀前半には「七十にあまりぬ」という『竹取物語』本文が存在したことが考えられる。古写本に恵まれているとはいいがたい『竹取物語』においては、当該部分に注を付すに値する知見といえるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、本年度は『竹取物語』前半部分を対象とし、これまでの注釈の点検をおこなうとともに、従来等閑視されてきた語や表現に注目して分析を進めることができた。また、特に『竹取物語』作者の目にした可能性のある仏書について知見を広めることもでき、彼の文学環境について考察する足がかりを得られた。 大きな典拠の新発見という点には至っていないが、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、今後は主に物語後半を対象として、注釈の最新化を図るべく、これまでの注釈の点検および新たな典拠の探求につとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は助成金の多くを書籍の購入に充てている。計画どおり必要な書籍を収集することができたが、古書も多く購入した分、当初の予定よりも残額が生じた。 次年度使用額も、本年度と同様に書籍の購入に充てるとともに、本研究を推進するための資料収集や学会参加のための旅費にも充当したい。
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