本研究は、近世以来の『竹取物語』注釈を無批判的に継承することなく、それらを丁寧に吟味し、その上で、漢訳仏典も含めた多様な漢籍を駆使しながら、『竹取物語』の表現、モチーフ等の典拠や背景を新たに探ってゆくものである。精緻な注を施すことで『竹取物語』注釈の最新化を図り、学界に寄与することを目的としている。 初年度(2018年度)の具体的な成果としては、大伴大納言の求婚譚において登場する「鳶・烏」に着目し、その背景や効果を考察した。二種の鳥の組み合わせの背景に漢籍の表現世界が広がっていることや、その登場が求婚譚のオチとして機能している効果について明らかにし、作品の注釈を充実させた。またほかに、後世の歴史物語『栄花物語』における『竹取物語』受容についても考察した。本研究の成果によって、『栄花物語』(正篇)が執筆されたと目される11世紀前半には、「翁、年七十にあまりぬ」という現存の『竹取物語』本文が存在したことを指摘できる。このことは、古写本に恵まれていない『竹取物語』においては、当該部分に注を付すに値する知見といえるだろう。 最終年度(2019年度)では、石作の皇子に課された難題〝仏の御石の鉢〟について、いかなる典籍や知識がこれまで注に挙げられ継承されてきたのかを確認し、改めてその材源について調査を試みた。この難題に関するこれまでの注釈を批判的に吟味するとともに、〝仏の御石の鉢〟の背後に、仏伝(釈尊伝)に描かれる四天王奉鉢の伝説が存在していたことを指摘した。また『竹取物語』の成立についても論及した。 上記の2年間にわたる研究のなかで、従来の注釈では取りこぼされてきた細部への目配りや、これまでに継承されてきた注釈の総括、また、材源の新たな指摘などをおこなうことができた。『竹取物語』の注釈の最新化を図り、学界への寄与ができたものと考える。
|