本研究は、日本の室町末期・戦国期という、16世紀の社会の動乱期における軍記物語と教訓書の関連性を捉えていくことを目的としている。 最終年度においては、年度途中に行くことが難しかった資料調査を中心に作業を進めた。軍記物語およびその関連資料と、『群書類従』に収められている中近世に作られたと考えられる教訓書を主として、その調査のため各所蔵機関を訪ねた。特に教訓書については先行研究が限られていることもあり、例えば『義貞軍記』のようにまとまった研究成果が出ている作品であっても従来確認されていなかった写本が存在していることが分かり、そうしたこれまで未紹介であった本も含めて閲覧・複写が出来た。現在、得られた書誌情報に基づき、未紹介の本が諸本の流れの中でどの位置付けになるかを整理している。但し、教訓書の諸本の中には現在の所蔵が不明になっている本も複数あることが分かり、期間中に所在の確認に至らなかった本については引き続き追っていきたい。 研究期間全体を通して、途中、社会情勢による移動の制限により予定通りに調査が行えず期間を延長せざるを得ない事態も生じたが、その分資料について考える時間が増えたことにより、詳細が不明なままであった『君慎』のような資料についても手掛かりを得ることが出来た。複数の論文発表や口頭発表の機会に恵まれ、当初に予定していた見通しは充分に達成することが出来、それ以上に本研究を通して今後発展させることが出来そうである新たな研究の着眼点を得られたことが大きかった。
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