研究実績の概要 |
本研究の目的は、考証学と戯作とのかかわりを明らかにすることで、雅俗にわたる近世後期の文化・社会のなかに戯作を位置づけることである。 今年度は、本研究で設定した3つの小テーマ(A,『画師姓名冠字類鈔』を手掛かりとした考証趣味のネットワークの研究、B,近世後期における共通の関心事項についての研究、C,山東京伝を中心とした考証と戯作との関わりについての研究)のうち、特にB.Cの研究に取り組んだ。 成果としては、近世中期~明治初期にかけての絵入り刊行物において参照されている先行作品とその利用法について、絵画要素に着目して論じた「絵を読み解く―近世・明治の出版物を読む」(『読まなければなにもはじまらない』所収)及び、当該論文において扱った野晒模様を着た人物の表象を、文化史・文学史的に読み解き直し、野晒模様が京伝が憧憬した近世初期の遊郭文化の中に見出される文様であったことを示し、戯作中でその意匠を扱う意義について論じた「生まれ変わる意匠―京伝作品における野晒模様の衣装―」(『国文論叢』所収)、そして、古浄瑠璃「一心二がびやく道」の初演時期について、柳亭種彦が考証の上最古とした事例に先行する正本が、大阪大学付属図書館赤木文庫に存することを確認したうえで、京伝や種彦といった、19世紀初頭に活躍した戯作者たちが、古浄瑠璃に強い関心を抱いていたことを述べ、京伝が自作の読本のなかで、「一心二がびやく道」を祖とする清玄桜姫の物語を如何に扱ったかについて論じた「山東京伝『桜姫全伝曙草紙』小考―清閑寺の場面を中心に―」(『上方文藝研究』所収)が挙げられる。 さらに、考証学と戯作の関係について、寛政の改革前後の京伝黄表紙に見られる自己言及に着目して「山東京伝『金々先生造化夢』に見る道徳」と題し、壇国大学日本研究所主催国際シンポジウムにおいて口頭発表を行った。
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