研究課題/領域番号 |
18K12307
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研究機関 | 盛岡大学 |
研究代表者 |
紅林 健志 盛岡大学, 文学部, 准教授 (10817654)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 仮作軍記 / 近世小説 |
研究実績の概要 |
3年目にあたる本年度は、仮作軍記の内容や形態について考察を行った。特に表記について整理を行った。『小栗実記』(享保20年〈1735〉刊)や『大友真鳥実記』(元文2年〈1737〉刊)は当時通行の軍書に従い、カタカナ表記を採用しているが、『坂東忠義伝』(安永4年〈1775〉刊)はひらがな表記を採用している。そして、『通俗朝比奈高麗軍談』(成立年未詳。写本で伝わる)は巻四までカタカナ表記を採用するが、巻五から巻十はひらがな表記を採用する。これは『通俗朝比奈高麗軍談』が写本であるため、筆写者のちがいなどさまざまな要因が想定できるが、大筋としては仮作軍記が軍記と娯楽読み物の中間的な性格を示しているためにおこった現象であることを明らかにした。 このことから、軍記の形式をとっていない初期読本についても、該当する作品がないかさらに精査する必要がでてきた。中では、『坂田金平太平記』(安永9年〈1780〉刊)が、その構想において仮作軍記と関連づけて考えるべき作品として浮上した。演劇に取材する点や、時代的な近さなど、仮作軍記的な傾向が強い作品と考えられる。今後は、本書も含めて考えていく必要がある。 なお、翻刻作業も平行してすすめているところである。 また、本研究では仮作軍記の章題のあり方について注目してきたが、これについては、近世小説全体を含めて考える必要がある。そこで、特に西鶴の章題についてまとめた「『好色一代男』の章題を読む」という小稿も作成した。本研究の副次的な成果といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
仮作軍記の内容面の考察や、翻刻作業等はすすめることができたが、コロナウィルスによる新型肺炎の影響により、県外への文献調査が思うように進まなかったことによる遅れも生じている。本年度も事態が収束するかは不明のため、計画の見直しも一部必要になってくるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
後の文学史への仮作軍記の影響を考えることを中心に行う。特に後期読本への影響について考察していきたい。具体的には『大伴金道忠孝図会』(嘉永2年〈1849〉前編、同3年後編刊)や『小栗外伝』(初編文化10年〈1813〉、二編同11年、三編同12年刊)などを対象に仮作軍記のどのような点が後期読本に継承され、また、どのような点が後期読本としては不十分なのか、比較して検証し、文学史の展開を明らかにしたい。 また、コロナウィルスによる新型肺炎の影響により、県外への調査がなかなか行いにくい状況にあるため、文献調査よりも内容の検討を中心にすすめていくことになる。 また、翻刻を中心にまとめた報告書についてもまとめて完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスによる新型肺炎の流行により、県外への文献調査が行えなかったため、研究費の使用が大きく滞ることとなった。次年度も、県外への旅費等で使用することがかなりむずかしい状況が予想される。計画を一部変更し、複写物の発注や、資料の購入費、報告書作成のための物品購入などにあてる予定である。
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