研究課題/領域番号 |
18K12309
|
研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
栗山 雅央 西南学院大学, 国際文化学部, 助教 (20760458)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 辞賦文学 / 賦注 |
研究実績の概要 |
六朝以前に成立した賦注について、本年は特に後漢時代に成立した班固「幽通賦」に対する曹大家注の分析を行った。 その結果として、曹大家注は賦注の中でも最初期の例として位置づけられることを確認した。同時に、その形式的特徴として従来は字句の説明や文意の通釈が指摘される他に以下の点を指摘することができた。すなわち、1)漢代に流通した三家詩の中でも『斉詩』に依拠した訓詁が見られること。2)「言己」という形式を用いた賦本文の解釈を示すことで、作者である班固との緊密さ(これは曹大家が班固の親妹であることと関係する)が認められること。3)文献に依拠した資料を引用する際に、書名ではなく人名によって引用する例が見られること。以上の点が確認された。 また、その注釈の内容分析を通じて、班固「幽通賦」の曹大家注と曹大家の「西征賦」との関連が幾つか見出すことができた。これらの分析を行うことで、班彪・班固・曹大家(班昭)を包括する班氏一族の賦作についても、その思想的特徴を見出すことができる可能性を指摘した。 併せて、本年度は本研究課題の前段階にあたる基礎的研究を行なった報告者の博士論文を『西晋朝辞賦文学研究』として、汲古書院より出版した。この中には、報告者が本研究課題を想定するきっかけとなった、「三都賦」の同時代人による注釈(劉逵注・張載注)の分析と、漢代から六朝時代にかけての賦注の形式の変遷についての論考が含まれている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年はおおむね順調と言えるが、但し、曹大家注の形式的特徴を分析する過程で、この内容が曹大家自身が創作した「東征賦」との関連が見られたため、本研究の当初の目的の発展的課題として考察する必要が生じてきた。これは直接には賦注を対象とするものではないが、賦注を媒体として、各作品間の影響関係を論じることを可能とするものである。そして、従来の注釈を作品読解の資料としてのみ扱う研究態度とは異なるものであることから、文学作品への注釈により積極的な文学史的意義を見出すものであると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、上述の曹大家注の内容と彼女の「東征賦」との関連、そしてこれらを包括する班固「幽通賦」、班彪「北征賦」などの班氏父子の賦作について考察を試みる予定である。 また、以上の考察が終了すれば、当初の目的であった六朝時代に成立した賦の自注について、特に顔之推「観我生賦」と張淵「観象賦」の自注にを中心に、本文と注釈との関係性を考察する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予算に余剰が生じた原因は、まず国際学会への参加に科研費を使用しなかった点に求められる。これは報告者が大学支給の個人研究費を用いてしまったことによる。次年度は、この余剰金を主に訪中を目的として利用したいと考えている。また、次年度は本年度末に出版した自著の出版費用も計上する予定である。その他は当初の予定通りとしたい。
|