本年度は、六朝時期以前に成立した賦の注釈及びそれに関連する研究課題として以下の点の考察を行った。 1)劉氏父子と班氏一族の文学創作の実態を明らかにするに先立ち、劉キンの創作した「遂初賦」に関する考察 2)張淵「観象賦」について、賦本文の分析と自注の分析や作者張淵の生涯の分析を通じた「観象賦」の文学史上の位置付けに関する考察 これらは本研究課題である「賦とその注釈」という観点から見れば、少し脇道に逸れたものではあるが、それぞれの課題を着実に進めるために必須の研究課題と判断し、特に本年度取り組んだものである。1)については、班固の「幽通賦」及その妹である曹大家による注釈が直接の対象であったが、彼らの創作活動を通じて、父である班彪の作品との繋がりや更に先行する劉キン「遂初賦」との繋がりを明確にする必要が生じたが、従来「遂初賦」そのものに対する考察は必ずしも十分とは言い難い状況にあったために、これに関する考察を進めた。2)については、前年度までに中国国内での論文集で基礎的な考察を行ったが、作者張淵自身の経歴、「観象賦」 という主題と文体を選択した背景などを更に分析した。これについては第69回九州中国学会大会にて口頭発表を行い、彼の作品の文学史上での位置付けについて論じた。会場では、これが果して北魏の時期を代表する作品と言えるかという視点が提示されたため、これについて現在考察を深めている段階である。但し、本年度もコロナ禍の影響が大きく、当初予定していたような研究成果をあげることはできなかった。また研究代表者個人に想定外の問題が発生し、これに対処する必要が生じたことで当初想定していたほどの研究活動ができなかったことは、非常に残念であった。
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