研究課題/領域番号 |
18K12311
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
鳥谷 まゆみ 北九州市立大学, 外国語学部, 准教授 (00580507)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 周作人 / 淪陥期 / 1940年代 / 打油詩 / 小品文 / 日本 |
研究実績の概要 |
2019年度は、国外で1回、研究講演会を行った。国内で開催された研究会で1回、研究発表を行い、4本の論文を執筆した(うち1本は中国語論文)。例年とは異なり、本来、本年度内に武漢大学で1回、北九州市立大学で1回国際ワークショップを開催する計画であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響のため、感染拡大直前に行った武漢大学での講演会1回のみの出張となった。なお、「研究実施計画」に記載の通り、本研究の調査の実施は、国際シンポジウム等参加の際、なるだけ現地で並行して行うようにしている。 本研究の当初の目的は、五四時期、革命文学、「小品年」にみる小品文の盛行、さらに日中戦争を経験して、「小品文」は中国の少年少女にいかに受容されたのか、そして彼らは小品 文に何を託して、継承したのだろうか。本研究は、民国時期の小品文が「近代」の歩みを進めるなかで人や社会に支えられ、呼応しながら定着してゆく諸相を、 国文教材への小品文(作品)収録および文芸「副刊」などの新聞メディアの小品文コラムを手掛かりにして明らかにすることにあった。それは、中国文化の近代的発展と深い関係を持つ民国時期小品文の定着過程を解明することによって、中国の「近代」の歩みを問い直したいと考えるからである。これによって、最終的に本研究が冷え込む日中関係の問題解決の一助となることを目指すものである。 しかしながら、当初全く予期していなかった周作人の新史料の発見によって、予定していた研究計画とは異なる調査・研究を実施することになった。研究計画の大幅な変更が必要となったことは、前年度の報告書(特に【現在までの進捗状況】および【今後の研究の進捗状況】)にも記した通りである。変更に伴って実施した研究内容については、【現在までの進捗状況】に記すこととする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、中華民国期の青少年たちが手がけた「小品文」と称される短文を収める投稿雑誌や国文教科書を日中両国の図書館・資料館でにおいて、調査、収集することを重要な柱のひとつとしている。その調査の過程で、小品文作家と呼ばれ、現代中国において「漢奸」文人と定義されている周作人が、日中戦争期に日本を公式訪問した際の史料を2018年度に偶然発見するに至った。そこで、当初計画していなかった周作人の訪日時における新史料の調査、分析を行なった。つまり、当初全く予期していなかった周作人の新史料の発見によって、予定していた研究計画とは異なる調査・研究を実施することになった。研究計画の大幅な変更が必要となった。 しかしながら、変更後に実施した調査および分析は、当初計画していた、中華民国期の青少年たちの小品文の研究とも関連がある。青少年が小品文を執筆するために、手本としたのが周作人小品文であった。周作人の小品文は、中国において、中高生の国文教科書に繰り返し収録された経緯がある。新たに取り組んでいる研究は、当初の研究と、文学史ないしは教育史上において、同一系譜上に位置づけることが可能である。このように、両者の研究内容は、部分的に重複する内容を含んでいる。とりわけ、日中戦争期における周作人に関する史料の多くは埋もれたままである。現在実施中の新たな研究の実施によって、周作人研究の空白部を補完することが期待できる。日中戦争期に対日協力に踏みこんだ周作人の解明は、現代中国における小品文の定着と社会との連関性の解明という点のみならず(=当初予定していた研究)、彼の日本受容の解明(=新たな研究)につながりうると考えられる。 以上のような状況に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大のため、2019年度後半からは予定していた出張がキャンセルせざるを得なくなり、資料収集ができない状態が続いている。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】に記した通り、日中戦争期における周作人の公式訪問時の史料発見によって、本研究は大きな方向転換を余儀なくされることとなった。それに加えて、昨年度末前後から世界規模で流行している新型ウイルスの影響もあり、資料収集を前提とする本研究は、研究計画、方法の抜本的見直しを迫られている。 研究計画の見直しについて言及する前に、まず当初の研究計画を提示しておきたい。1.単独で実施する、2.調査・収集・分析(先行研究レビュー、収集資料レジュメ作成を含む)は3年間を通じて随時実施する、3.国内外の若手研究者と連携して国際ワークショップを毎年開く。 上記、1については変更の予定はない。2と3について次のように変更する。A.国内・外での史料収集を取りやめ、各図書館、史料館が公開するデータベース等、オンラインを通じて調査を行うこととする。B.国内外の若手研究者との国際ワークショップはオンラインで開催することとする。ワークショップへの招待者は日中韓の若手研究者を予定しているが、それぞれの地域によって感染等の状況が大きく異なることから、9月を目途にオンラインで顔合わせを兼ねてワークショップの打ち合わせを実施する。11月にオンラインで国際ワークショップを開催する。 以上の方法によって、20世紀東アジアの「紙上の声」の形成過程とその内実を浮き上がらせることを目指す。 なお、現在、勤務地がある北九州市では新型コロナウイルス感染が再燃中であり、予断を許さない状況である。状況に合わせて、適宜、研究計画を見直す予定であることを申し添えておく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた海外1回、国内1回の合計2回の出張、ならびに北九州市立大学での国際ワークショップ開催(1回)を、新型コロナウイルス感染拡大により中止したため多額の余剰金が生じた。 今後の使用計画としては、国際ワークショップのオンライン開催に向けて、コンピューターをはじめ周辺機器を揃える。また、状況が改善すれば、北九大でのオフラインによる開催時に助成金を使用する計画である。 ほかにも、データベース等を活用しての資料収集時に支払いが必要な利用料金に充てる計画である。
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