研究課題/領域番号 |
18K12314
|
研究機関 | 二松學舍大學 |
研究代表者 |
高橋 佑太 二松學舍大學, 文学部, 講師 (30803324)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 模書 / 臨書 / 筆意 / 位置 / 初学者 / 指南書 / 結構法 / 書論 |
研究実績の概要 |
本研究は、従来、閑却視されてきた個々の書法教育という側面に焦点をあて、清代の書論から関連する言説を抽出し、書家や師弟を中心に具体的にどのような書法指南が行われていたのか、当時の書法教育の実相解明を目的とするものである。 昨年度は結構法のうち、一格を九つに分割する「九宮法」に着目し、その多様な展開を調査検討したが、その背景には清代における作品の巨大化が関係していることを指摘した。同時に「九宮法」の説の展開において、いわゆる「敷き写し」の方法をとる説が複数見られたこと、また清代の書法指南書において、「敷き写し」とほぼ同意義の語である「模書」に関する言説が多数、見られることに鑑み、本年度は清代の書論から「模書」に関連する言説を抽出し、整理検討を行った。 検討の結果、先学が指摘する、学書における「位置」よりも「筆意」を重視するという風潮は確かに清代前期において色濃く見られたが、それは徐々に下火となる傾向が明らかとなった。同時に、前期には混用していた「模書」と「臨書」を、中期以降、明確に区別する言及が増加し、そしてそれらの学習法の順序にまで言及する説も多数、確認することができた。これは清末にむけて、初学者向けの指南書が増加するにつれ、初学者が結体や位置を優先して学ぶべきという流れが徐々に拡大していったことが要因であろうと考えられ、この風潮は昨年度、検討した九宮法を推奨する気運の拡大とも合致することを指摘した。 また清代における模書説の新たな展開として、①「模書」したものの上に紙を敷き、そのうえでの「臨書」を推奨する、「模書」と「臨書」を組み合わせた新たな学習法(包世臣説)、②梁同書、曽国藩、魏錫曽らによる児童を対象とした年齢別学習法の提言なども確認することができた。なお上記の研究内容については、書論書道史研究会第26回例会(2020年3月28日、二松学舎大学)で口頭発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、昨年度、着目した結構法、特に「九宮法」での展開の検討を踏まえ、それに関連する「模書」説の展開に着目することで、清代における書法教育、学習法の展開の一班を明らかにすることができた。ただし、研究内容を論文としてまだ発表できていないこと、年度末に計画していた海外の図書館の調査が新型コロナウイルス感染症の流行により、遂行不能となり、計画よりも遅れていることから、当該年度の研究は当初の計画よりも若干、遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は、結構法や模書に焦点をあて、研究を進めてきたが、そこには初学者向けの指南書の増加が大きく関連していることが想定される。これらの実相、特徴やその対象などの検討を中心に、他にも師と門弟との問答をまとめた書論の考察にも着手する予定である。同時に、海外及び国内の図書館機関の調査を通して、未発見の書法指南書及び書論の発掘にも努めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、予定していた海外出張に行くことができなかったため、次年度の費用として先送りする。研究の遂行上、必要不可欠な図書の購入、もしくは、海外の図書館等の調査費用として使用する計画であるが、中国への出張が難しいことも想定し、国内の図書館の調査にも取り組みたい。
|